気管食道科に関連する疾患・症状

嚥下障害

嚥下障害とは

「物を食べる」ことは、食べ物を「認識し」「口に入れ」「噛んで」「飲み込む」までの一連の動作からなります。このうちの「飲み込む」という動作が「嚥下(えんげ)」にあたります。このページでは代表的な嚥下障害の説明を行います。

嚥下は、主に舌の運動により食べ物を口腔から咽頭に送る「口腔期」(図1)、嚥下反射により食べ物を咽頭から食道に送る「咽頭期」(図2)、食道の蠕動(ぜんどう)運動により胃まで運ぶ「食道期」(図3)に分けられます。嚥下には多くの器官が関わっており(図4)、これらが障害を受けるさまざまな疾患で、嚥下障害が起こります。

(図1:口腔期)
(図2:咽頭期)
(図3:食道期)
(図4:嚥下に関する期間)

嚥下障害が起こると、食物摂取障害による「栄養低下」と、食べ物の気道への流入「誤嚥(ごえん)」による肺炎(嚥下性肺炎,誤嚥性肺炎)が問題になります。嚥下障害を引き起こす疾患にはいろいろなものがありますが、とくに脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、神経や筋疾患などが高い率で起こります。また、高齢者の肺炎のかなりの部分は、加齢による嚥下機能の低下による誤嚥によって引き起こされるともいわれ、高齢社会を迎えてその対応が問題になっています。

嚥下障害の症状

食べ物がのみ込みにくくなったとの自覚(嚥下困難)や、食事の時のむせ(誤嚥)が現れます。声も嚥下機能の参考になります。嚥下困難の訴えがない場合もありますが、食事の状態で判断することもできます。固いもの、ぱさついたもの、まとまりのないもの、固形物と水物の混合したものは飲み込みにくい食べ物であり、食事に時間がかかるようになります。誤嚥の有無はのみ込んだあとの咳や、食後によく痰が出るなどからも判断できます。水を飲んだあとの痰が絡んだような声は、喉頭まで食べ物が侵入していることを示唆します。気道反射の低下している場合には、むせは認められず、さらに肺炎を起こしやすい状況になるので注意が必要です。なお、高齢者の嚥下(誤嚥)性肺炎は、発熱などの症状が軽度のこともあります。

検査と診断

精神・身体機能も含めた全身状態をチェックします。次に口腔・咽喉頭の所見から、おおよその嚥下機能を判断します。舌の運動性は口腔期の食べ物の移動に、咽頭の知覚は咽頭期を引き起こすのに重要です。口腔から咽頭にかけては比較的簡単に観察できますが、下咽頭や喉頭の機能を確認するには、喉頭ファイバーなどの内視鏡検査が必要になります.実際に食物などを嚥下させて誤嚥などを検出する検査には嚥下内視鏡検査(動画)があります。また、実際に食べ物がどのようにのみ込まれるかを調べる方法としては、造影剤を用いて嚥下状態をX線透視下に観察する嚥下造影検査(動画)があり、現在では最も信頼性の高い方法と考えられます。

治療の方法

栄養摂取と誤嚥防止の観点から、嚥下障害の程度により対応や治療法を決定します。 嚥下障害が軽度な場合には、誤嚥が起こりにくい様に、食べ物の形態を工夫します。水のようなものは誤嚥しやすいためトロミを付けることなどが、その代表例です。しかし、ある程度以上の障害があると、経口のみでは栄養摂取が不十分になるため、他の栄養補給法に頼らざるをえません。幸い、栄養摂取については、高カロリー輸液を静脈内に投与する方法や、さまざまな経管栄養が発達してきており、生活スタイルに合わせてある程度の選択が可能です。一方、誤嚥の防止は非常に難しい問題になってきます。誤嚥は肺炎を引き起こし、生命の危険を招くおそれがあります。やっかいなことに、肺炎の発症は誤嚥の程度だけで決定されるものではありません。誤嚥物の性質、気道からの吐き出す力、肺の状態や全身状態などが複雑に関わり、場合によっては少量の誤嚥でも肺炎を起こします。 肺炎すなわち誤嚥を防止するために、気管切開を行ったうえでカフ付きの気管カニューレという器具を装着することが必要な場合もあります。嚥下障害の改善や誤嚥防止を目的として、手術治療が行われることもあります。誤嚥をできるだけ少なくして経口摂取を可能にしようとする嚥下機能改善手術と、誤嚥をなくすことを主眼とした気道と食道を分離する誤嚥防止術に大別されます。

咀嚼と口腔衛生

実際の食事では、ものを噛みながら(咀嚼:そしゃく)飲み込んでいます。単純な嚥下動作とは異なっており、よりむせ(誤嚥)やすくなります。咀嚼は嚥下にとっても非常に重要な動作であり、このことからも歯の大切さが理解できます。また、口腔内をきれいに保つ事は、嚥下性肺炎の軽減につながるとも言われ、常日頃心がけるべき事です。

嚥下障害では、咀嚼や口腔衛生はさらに重要になるため、歯科医師の先生に指導を受けるのが良いでしょう。一方、嚥下については、栄養摂取や肺炎といった生命に関わる重大な問題が生ずるため、耳鼻咽喉科をはじめとする医師の先生に診断や治療をお任せする事をお勧めします。

【動画1:嚥下内視鏡画像】
【動画2:嚥下造影検査】