気管食道科に関連する疾患・症状

嗄声

目からうろこ:声の出る仕組み

声が変であることを正しく理解する為には声の出る仕組みを知らなくてはなりません。声はいわゆるのど仏の中にある声帯が震えて出てきます。声帯の下は気管でここから出てくる空気(呼気)がエネルギーとなって声帯を震わせます。このことを声帯の振動と言います。

そして大事な事は声帯は左右2本あって、声を出すときはぴったりと寄り添って閉じるのです。寄り添った左右の声帯の隙間を空気が走り抜けて声帯に振動を起こすのです。もう一つ大事な事があります。声帯が自由に振動する為には声帯を作っている粘膜が適度に軟らかくてぶるぶる震えるのに適してないといけません。それで声帯は楽器に例えるとピアノやバイオリンの弦に相当すると考えてよいでしょう。

声に以上があるとは?

普通には風邪などの時に声ががらがらになることが一般的には理解し易いでしょう。でもこんな事も有ります。若い女性なのに「どうしたの、男みたいな声で変です」と言われたり、中年のおじさんなのに「おかしいですよ、小学校の男子の声みたい」といった声の変化もあります。また別にがらがらしていないのに声が途切れてスムースに出ないなんて言うのもあります。これらは声帯という弦に一見して異常が無い声の障害です。また声帯に異常がないのに妙に弱々しい声しか出ないとか、逆に強すぎて絞り出すような声しか出ないなんて場合もあります。最初の若い女性の男声は男性ホルモンを他の病気の為に投与されて起こる男性化音声、中年男性の男の子声は変声期の障害です。スムースに出ないのは声帯が痙攣している場合、弱々しかったり、強すぎたりするのは何らかの原因で発声法が間違っている場合に起こります。

以上の場合は声帯という弦には異常が見られません。声の障害は大きく括ると発声障害という言葉を使いますが、ここでもうお解りかと思いますが、発声障害には声帯に異常がある場合と、異常が無い場合の2つがあるのです。

しかし一般的には声がガラガラするような声帯に異常がある場合が多いのです。 そこでここでは声帯に異常がある場合で「声が嗄れる」ことを主題として記述いたしましょう。

どんな異常があるの?

ここでピアノの弦を思い浮かべましょう。もしもピアノの弦の上にリンゴが乗っかっていたら音はどうなりますか。多分音は濁って聞くに堪えないものになってしまい、もはや演奏は無理です。それから弦が異様に細くなったりしても正常な音は期待出来ません。また年月が経って弦がぼろぼろになっていたらやはりまともな音は出ないでしょう。これらを声帯に当てはめて考えてみましょう。最初のリンゴ、これは声帯に余計なものが生じたと考えてください。難しくは『声帯の重量負荷』と言いますが有名なのはカラオケなどで生じる声帯ポリープがあります。次の細くなる事ですが難しくは『声帯の質量減少』ということです。臨床的には経年変化のため声帯が細くなったり、溝ができてしまう現象です。臨床的には声帯萎縮が有名です。最後の弦のぼろぼろは難しくは『声帯粘膜の物性変化』と言います。これは声帯に強い炎症が持続したり、声帯手術後などに起こる声帯の瘢痕がこれにあたります。

またピアノの弦では説明出来ない重要なことがあります。
最初に述べた左右の声帯がぴったり寄り添うことが声を出すのに重要である事を思い出してください。左右の声帯が動いてきて真中でぴったりとくっ付くのです。もしも声帯が動かなかったらこんな事は出来ません。声帯が動かない事、つまり声帯の運動麻痺です。多くの場合声帯を動かしている神経(反回神経と言います)の障害です。これは大事な事なので後でページを戴きましょう。

声帯の重量負荷

これには沢山の病気が有ります。怖いのは喉頭癌(声帯に80%生じます)です。
声帯ポリープ、声帯結節、ポリープ様声帯、声帯嚢胞、乳頭腫、喉頭アミロイドーシス、声帯白板症、声帯血管腫、などなどです。

正常声帯振動

最初に正常な喉について声帯を中心として動画1に示しています。ポリープなどが有る場合と比較いたしましょう。

声帯ポリープ

これは弦の上にリンゴが乗った状態と考えてください。大きな声を急激に出して声帯の粘膜に内出血が生じ、それがもとになって所謂ポリープになるものです。成人の男性にやや多いとされ、一側に出来ることが普通です。カラオケの楽しみ過ぎ、スポーツ観戦での大騒ぎ、選挙応援で声の乱用などが原因となります。

喉頭がん

喉頭がんは声帯にできることが多く、初期には動画のようにポリープのように見える時期があります。進行すると声嗄れだけでなく、呼吸困難、嚥下困難など生命にかかわる問題になります。一か月以上声嗄れが続くときは耳鼻咽喉科医または気管食道科医に相談しましょう。

声帯結節

これは多くの場合左右の声帯に出来るペンだこみたいなものです。長期的に無理な発声があって、声帯の中でも最も擦れ合う所が胼胝(たこ)になるのです。声帯の擦れ合う回数の多い女性や、学童期の男子に多く見られます。そしてこの疾患が声帯に出来る病気の中で最も職業性が強いのです。すなわち、歌手(和洋中華全て)、教師、保育士、アナウンサー、キャビンアテンダント、エアロビやスイミングのインストラクターなどです。

ポリープ様声帯

多くの場合左右の声帯がぶくぶくふくれあがった状態です。ピアノの弦が異様に膨らんでしまった状態と考えてください。つまり声帯全部がポリープみたいということでポリープ様声帯と日本語では言われます。中年以降の男女で喫煙者に多発いたします。この疾患は喫煙と非常に強い関係があります。ところで声帯の部位はその下が気管ですから空気の玄関でもある訳です。

従ってこの病気の非常に進んだ状態では声が嗄れるという問題よりも呼吸困難が全面に出てくる事もあります。こうなると命に関わるようになります。

声帯が閉まらない

これは声帯が痩せてしまったりして、声帯が寄りそっても隙間が出来てしまう場合です。先に述べた声帯萎縮や声帯溝症、また声帯の運動麻痺が相当いたします。ここでは声帯の運動麻痺に着いて述べます。

声帯の運動麻痺(反回神経麻痺)

なぜ反回神経と言われるのか,ここが重要です。神経が頭から下がってくるのはよいのですが首の所で直接喉に入ればよいのに、わざわざ左の神経は心臓の大動脈弓を回って上に進み、喉まで到達します。

この経路に心臓の大血管、食道、気管肺、甲状腺など重要臓器があります。右は鎖骨下動脈を回ってやはり、同じような経路を辿ります。

この特有な経路の為色々な問題が生じます。例えば大動脈瘤、食道癌、肺癌、甲状腺癌などが原因となって神経が損傷を受け、声帯が動かなくなるのです。

日常臨床的にも声がかれて耳鼻科を訪れ、声帯の運動麻痺と判明し、色々検査したら食道癌が発見されたことなんて結構あります。また未だ麻痺が無くても、食道や甲状腺の手術で神経を切らざるを得ない場合も、結果として声帯の麻痺が生じます。このときは声帯が左右で寄り添えませんので隙間が出来てしまいます。声帯が細くなったりする場合と同じで空気が漏れて声が嗄れるのです。

検査は何が大事?

のどの検査には音声音響検査、筋電図検査などなど沢山有りますが、検査の基本は喉頭内視鏡検査です。先端にCCDカメラを装着させ、柔軟性がある喉頭ファイバースコープ(電子内視鏡)は鼻腔経由で喉頭まで挿入されます。
鼻腔を充分広げて麻酔も塗布しますので苦痛はほとんどありません。

また鼻腔経由ですので余計な咽頭反射も無く施行できます。そしてビデオに収録されますから画像を見ながら医師から病態について説明を受ける事が出来ます。もう一つの内視鏡は口腔経由で観察するものです。

純粋に光学系から構成されていますので画質は最も良好です。しかし舌は引っ張られていますし、場合によっては咽頭反射が強くて施行出来ない事もあります。しかし画質の良さは抜群で喉の専門医にとっては無くてはならないものです。

治療は?

一般的には沈黙や吸入、消炎剤などが用いられますが少し専門的な治療に着いてお話しいたします。

音声治療

これは声のリハビリみたいなもので、国家資格を有する言語聴覚士が行います。ボイストレーニングの医学版と考えてもよいでしょう。呼吸を腹式にしたり、強い発声にしたり、希望の声の高さに誘導したりするのです。

手術

これは声帯に余計なものがあったら、手術的に切除いたします。声帯ポリープ切除術です。

方法としては全身麻酔下で行う喉頭顕微鏡下手術,日帰りでも出来るファイバーを使った手術などです。これには各施設で色々な方法が開発されていますが 最も普遍的なのは喉頭顕微鏡下手術と言えるでしょう。

では声帯麻痺のように声帯が寄ってこないため隙間が出来てしまったらどうするのでしょう。2つあります。一つは声帯に何らかの物質を注入して隙間を無くす方法です。注入用物質としては現在ではコラーゲン、自家脂肪などありますがより良い物質を見つけるため各施設で研究がなされています。

もう1つは手術によって声帯の位置を変える事です。声帯を中央に寄せて隙間を無くしたりします。これを甲状軟骨形成術といいます。

最後に

声が嗄れたり、変になったりする場合いろんな病態がある事が理解されたでしょう。またそれぞれに応じた対応もある事が分かりました。声帯は比較的容易に観察出来る位置にあります。

従って内視鏡検査が極めて有効で初期の喉頭癌も早く発見出来て命も声も大丈夫ということになります。

ですから声がかれたらなるべく早く専門施設を訪れ、的確な診断のもとに治療を受けるようにいたしましょう。

動画1:正常声帯振動)
動画2:声帯ポリープ
動画3:喉頭がん