1 はじめに 外科的気道確保は,気管もしくは喉頭に直接的に手術侵襲を加える手技であるため,あらかじめ頸部,特に喉頭・気管の解剖・生理には精通しておくことが必須となる。そこで,本章では外科的気道確保に関連すると考えられる頸部の構造(解剖)・生理を取り上げ簡単に解説する 1)〜4)。なお,本章では外科的気道確保の手技を行う際に直接関係する解剖学的構造物を赤字で示し,さらに本手技に関連する記述に赤下線を付けた。2 頸部の解剖■ 頸部気道(喉頭・気管)の特徴 頸部気道を構成する喉頭や気管は,体幹や頸椎に固定した器官ではない。舌骨を介して,下顎骨や頭蓋骨より筋肉でつり下げられており,頭部の回旋や,呼吸・咀嚼嚥下動作にて可動することを念頭に置くべきである。 外科的気道確保術を施行するうえでは,頸部の視診・触診により頸部気道の位置関係を把握することが重要になるが,喉頭,特に甲状軟骨がつくる喉頭隆起(いわゆる,のど仏)はその際の重要な指標とされる。しかし,成人男性では喉頭隆起は発達しているが,女性や小児においては喉頭隆起は未発達であるため,わかりにくい場合もある。また,甲状軟骨より輪状軟骨をよく触知し得る場合には,甲状軟骨と誤認されるおそれがある。さらに肥満傾向の症例においては喉頭や気管を皮膚から同定しにくくなる。 頸部における喉頭の高さは個人差が大きく,年齢によっても変化する。すなわち,小児において喉頭は比較的高位にあり,高齢者においては下方に位置する(図Ⅰ-3a:2頁参照)。 頸部において喉頭は気道の中では最も表面に位置する器官であるが,最も狭い部分(声門)でもあるため,外科的気道確保術は通常これより下方で行われる。しかし,喉頭より下方において気管は次第に体表から離れて走行するため,下方に行くほど気道への到達が困難になる(図Ⅰ-3b:2頁参照)。また,喉頭は気道としての役割のみならず,発声や嚥下において重要な器官である。 甲状軟骨をはじめ,舌骨,気管軟骨は馬蹄形をしているが,頸部気道の中で輪状軟骨のみがリング状に全周性に軟骨が存在している部分である。呼吸困難時に気管内腔が陰圧になり,気ChapterⅡ 頸部の解剖と生理Ⅱ
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