■ 出血・血腫形成 術中・術後の出血源として以下が挙げられる。 ● ● ● ● C.輪状甲状靱帯(膜)穿刺・切開術に伴う合併症 35る。食道への誤挿入は,気管後壁を損傷して気管食道瘻を形成することにより生じるため,穿刺・切開時に慎重さを欠かぬよう注意が必要である。 輪状軟骨・甲状軟骨・輪状甲状膜・舌骨といった解剖学的指標は,患者の体型(短頸・肥満など)・性別・年齢や過去の手術既往等により触知しにくいことがある。このような,輪状甲状靱帯(膜)が同定しにくい場合には,輪状甲状靱帯(膜)経由以外のアプローチを検討する。女性は男性に比べ頸部における甲状軟骨の位置が高いため,輪状甲状靱帯(膜)の位置も相対的に高いこと,ときに甲状軟骨より輪状軟骨のほうが前方に突出していることなどに注意が必要である。さらに女性では輪状甲状靱帯(膜)の上下径・横径・面積いずれも男性に比べて狭い(図Ⅱ-8:17頁参照)。 思春期前の小児では甲状軟骨が未発達のため触知しにくく,前頸部で最も突出しているのは舌骨および輪状軟骨である。また,成人に比べ小児では輪状甲状靱帯(膜)は頭側に位置しており,その上下径や面積も狭い。そのため小児では合併症の頻度が高く,12歳以下では輪状甲状靱帯(膜)切開術は禁忌である。穿刺術は適応があるが,むしろ通常の気管切開術が勧められる。 また,高齢者は軟骨が骨化しているため,各軟骨の位置を誤りやすいので注意が必要である。切開部位を誤らないためには,なるべく正中線上で操作を行うようにすることが重要である。合併症等により気管が蛇行・偏位しており,正中線上に気道が存在する確証がない場合には,甲状軟骨喉頭隆起と胸骨頸切痕とを結んだ線で手術操作を行うようこころがける。 皮膚・皮下組織 前頸静脈 輪状甲状枝(上甲状腺動脈の分枝で輪状甲状動脈とも称される) 甲状腺錐体葉 上記の部位から出血する可能性があり,手技施行中や術後早期の合併症として重要である。 前頸静脈,錐体葉は正中よりもやや外側に縦に存在し,輪状甲状枝(動脈)は輪状甲状靱帯(膜)の上半を横走するため(図Ⅱ-9:18頁参照),これらの損傷を避けるためには,穿刺・切開の位置として,輪状甲状靱帯(膜)の下方,輪状軟骨直上の高さが推奨されている 7), 9)。 出血した際には,まず局所の圧迫を行う。通常,皮膚や皮下組織からの出血は圧迫によって数分で止血が得られる。なお,輪状甲状枝(動脈)由来の出血は,術中のみならず術後出血の原因ともなり,気管内へ出血すると気道閉塞を生じ致死的となることがある 9)。止血困難な場合にはただちにカフ付きの挿管チューブや気管カニューレにより安全な気道を確保し,開創して上甲状腺動脈を結紮して対応する。 甲状腺錐体葉はヒトの70〜80%に存在し,血流が豊富で,正中よりもやや左側に位置することが多い(Ⅱ章4項:17頁参照)。さらに,内頸静脈からの出血の報告もあるが,正確な部位Ⅲ
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