外科的気道確保マニュアル 第2版
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■ そ の 他 その他の代表的な合併症として以下が挙げられる。● ● ● ● 3 対 策■ 緊急施行と待機的施行 輪状甲状靱帯(膜)穿刺・切開術の合併症の頻度は,緊急施行時と待機的施行時で大きく異なる。緊急施行時の合併症の発生率は,待機的施行時の約5倍と高くなる 8)。 とはいえ,気道確保を目的とする場合には,緊急の切迫した状況下で行われる手技であり,いざというときのためにモデルなどで手技に習熟しておくことが求められる。待機的に行われる吸痰ルート確保目的の場合には,種々の合併症も念頭に,適応と禁忌の遵守が求められる。■ 管 理 合併症の減少に寄与する管理として定まった見解はない。 長期間の留置を避けることで合併症を抑制できる可能性があるため,カニューレやチューブの留置期間を短期間とし,可及的速やかに気管切開術などにより必要十分な換気や吸痰のルートを確保する。手技施行前後の抗菌薬の投与や副腎皮質ステロイドの有効性に確固たるエビデンスはない。38  Chapter Ⅲ.輪状甲状靱帯(膜)穿刺・切開術行していない部分は靱帯下縁では横径4mm程度である。また,上下方向では甲状軟骨下縁から声帯までの距離は7〜9mm程度であり,声帯を損傷すると嗄声が生じる。さらに輪状軟骨・甲状軟骨を損傷することで喉頭・気管内腔が狭小化する可能性がある。正中から左右にずれた,誤った部分の穿刺・切開は,反回神経の損傷を引き起こす可能性がある。 対策は,正確な部位にアプローチすることと,不適切な大きさのカニューレを用いないことである。声帯は甲状軟骨下縁から上方7〜9mm程度の距離にある。声帯損傷ならびに輪状甲状筋の損傷を避けるためには,靱帯(膜)の穿刺・切開はなるべく下方の正中付近でのアプローチをこころがける。また,カニューレ挿入時に甲状軟骨を上方へ牽引しすぎると,声帯の損傷を起こす可能性があるので,代わりに気管を下方へ牽引するとよい。 誤嚥 局所感染 気管軟化症 気管腕頭動脈瘻(カフ圧の過剰,チューブによる刺激) 気管切開術と同様の合併症が起こる可能性があり,上記の報告がある。 気管腕頭動脈瘻は気管切開術と比較して輪状甲状靱帯(膜)穿刺・切開術では少ない一方,音声障害や声門下狭窄は気管切開術に比べると多いとされている。(齋藤康一郎)

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