外科的気道確保マニュアル 第2版
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■ 下気道の分泌物貯留,排出困難による気道閉塞 重度の嚥下障害により唾液の多くが気道に流入し,それを十分に排出できない場合,気管切開とカフ付き気管カニューレの留置が検討される。ただし,気管切開自体が嚥下機能を低下させる要因となるため,永続的または増悪する病態ならば誤嚥防止手術も検討される。 呼吸器疾患により喀痰が増加し,十分に排痰できない場合は,呼吸理学療法や輪状甲状靱帯穿刺が第一選択となるが,長期的な管理が必要ならば,気管切開も検討される。■ 人工呼吸器の装着 呼吸器疾患においてマスクによる呼吸補助(非侵襲的陽圧換気,non-invasivepositivepres-sureventilation;NPPV)で十分な酸素化ができない状態となった場合,気管切開を行い,気管カニューレに接続して呼吸管理を行う必要がある(気管切開下陽圧換気,tracheostomyposi-tivepressureventilation;TPPV)。呼吸障害が急速に増悪し気管挿管された場合は,鎮静の必要性や喉頭損傷の可能性から長期的に継続することは望ましくなく,2週間程度で抜管できるかが気管切開の適応判断のうえで目安となる。気管切開を行うことにより,死腔の減少や空気抵抗の減少により換気効率が良くなるため,人工呼吸器からの離脱が可能となる場合もある。3 外科的気管切開術■ 基本的手技 全身麻酔,局所麻酔ともに術式はほぼ同様である。頸部の解剖(図Ⅳ-1)にしたがって,皮膚,前頸筋(胸骨舌骨筋),甲状腺と順に処理していけば気管に達する。新たな層に入るたびに気管の位置を触診で確かめるようにすることが,合併症を防ぎつつ迅速に気道に到達するうえで重要である。40  Chapter Ⅳ.外科的気管切開術甲状腺総頸動脈内頸静脈迷走神経食道前頸静脈白線胸骨舌骨筋気管胸骨甲状筋胸鎖乳突筋反回神経横隔神経頸筋膜椎前葉頸長筋椎体 図Ⅳ-1 頸部の解剖

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