42 Chapter Ⅳ.外科的気管切開術に除ける。胸骨舌骨筋を正中の白線で左右に分けると甲状腺が現れる。 気管に至る経路と甲状腺の関係から上・中・下気管切開術に分類される(図Ⅳ-4)。上気管切開術は甲状腺峡部を下方に引き下げ気管を開窓する方法であり,高位での気管切開となりやすく,気管カニューレの接触により輪状軟骨が損傷され,潰瘍形成や内腔の狭窄をもたらす恐れがあるので推奨されない。下気管切開術は甲状腺を上方に牽引し気管壁を露出してから気管を開窓する方法であり,甲状腺を処理する作業が省略でき開窓までの時間が短縮できる反面,下方に走る静脈の処理を丁寧に行わないと出血した場合の止血操作に難渋し,また気管孔が深くなる傾向にある。中気管切開術は甲状腺を正中で切断して左右に分け,気管を露出する方法であり,気管を適切な位置で開窓しやすく,術後に甲状腺から出血する危険性が小さいため,待機的な気管切開では最もよく行われている。 中気管切開術における甲状腺の処理法について述べる。甲状腺峡部上端から気管との間にペアンやモスキートケリーなどの鉗子を下端まで通すと,甲状腺正中部が気管前壁から剥離される。鉗子の先に気管前壁の軟骨による凹凸を感じながら操作すると,甲状腺裏面の損傷による出血を避けることができる。剥離された甲状腺峡部を2本の鉗子で挟み,正中で切断する。結紮部が抜けないように2-0絹糸などを丸針で甲状腺に通し,片側で1回糸を結んでから再度反対側で結び,ゆっくり鉗子を外しながら強く甲状腺断端を結紮する(図Ⅳ-5)。さらに気管切開する範囲で気管前壁から甲状腺を剥離する。 局所麻酔で行っている場合は,1 ml程度の2%または4%のリドカインを容れた注射器に23ゲージ針を付け,気管輪間に穿刺して空気を吸引することで気道であることを確認したうえで,リドカインを注入して気管粘膜を表面麻酔する。注入すると咳が出るので,素早く針を抜去する。 気管開窓法は,成人では初回の気管カニューレ交換時や事故抜去時の皮下への誤挿入を防ぐことができることから逆U字型(Bjork flap 1))が推奨されるが,目的や状況に応じて,円形(窓a:上気管切開術b:中気管切開術c:下気管切開術 図Ⅳ-4 甲状腺との位置関係による分類abc
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