5 幼小児の気管切開術 小児の気管切開は気管そのものが細く,まだ成長発達過程であることから,成人と全く同じ管理は適していない。小児に対して気管切開を行う適応は,慢性肺疾患など肺が十分に成熟していない場合や低酸素脳症など中枢性に換気ができないため,長期人工呼吸器管理を要する状態である場合と,声帯麻痺や小顎による舌根沈下など上気道狭窄がある場合となる。産期の管理の進歩により500g以下で出生した子どもでも救命できるようになった。気管切開は可能であれば術後の管理からは体重が4〜5kgくらいになってからのほうが望ましいが,たとえ2.5kg以下で手術を行ったとしても術後の合併症やリスクが増加することはなかったとされている1)。呼吸障害や基礎疾患があると体重増加不良となり,その間ずっと経口または経鼻挿管による管理は閉塞や事故抜管のリスクもあるため,気管切開を行うタイミングを待つ必要はない。■ 小児の気管切開で注意すべき点 解剖学的に小児の気管は軟らかく,気管切開をすることにより気管の成長はその部分のみ止まってしまうこと,カニューレの形状,サイズ,固定などの方法により気管切開孔直上のカニューレによる圧迫が遷延し,肉芽や狭窄が生じやすいこと,さらに切開孔周囲の不適切な清浄により感染性のびらんや肉芽を起こしやすいことなどが挙げられるため,これらの点を念頭において,気管切開の術式やその後のカニューレの選択,管理の方法などを検討していく必要がある。■ 基本的な術式❶皮膚切開 小児は頸部が短いため,肩枕を入れて伸展させ,さらに下顎も挙上させる。切開部位は輪状軟骨下,第2気管軟骨輪の直上を2〜3cm横切開する。小児は解剖学的に喉頭や甲状腺の位置が高く,下気管切開術となることが多い。切開部位の脂肪組織が厚い場合は感染や肉芽の原因となり得るためトリミングする。❷気管前壁の確認 小児の気管は細く,助手の筋鉤の引き方により気管を見失うことがある。触診で気管を適宜確認しながら,気管前面を慎重に剥離する。甲状腺が正中にある場合は,甲状腺裏面を剥離し,峡部で切離して前壁を露出する。年少だと甲状腺そのものも小さく薄いため,バイポーラで焼灼するだけで分けることが可能なこともある。気管がわかりづらいときは,細い内視鏡を気管挿管チューブに挿入するとライトガイドになる。❸気管切開(開窓) 通常縦切開が行われる。気管正中から左右に1〜2mm離れた位置に3-0または4-0ナイロン糸を左右牽引用に1針ずつかける。第2-3気管輪を縦に切開し,牽引糸を左右に牽引すると切開孔は紡錘型に開き,気管内に挿管チューブが見えるようになる。麻酔科医に気管チューブをゆっくり切開孔上縁まで抜いてもらい,気管カニューレを挿入する。外科的気管切開術 47Ⅳ
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