1 気管切開による呼吸状態の変化とその対応■ はじめに 気管切開は長期に渡る人工呼吸管理を要したり,気道狭窄や気道分泌物の管理が必要になったりする患者に施行される。気管切開術後は,気管挿管チューブによる管理と比較して種々の生理学的利点が得られる反面,様々な合併症が出現して呼吸状態の悪化を来す可能性があるため,注意深い観察と適切な対応が必要になる。■ 術後の呼吸生理学的変化を中心とした,気管切開術の利点と注意点,およびその対応❶気管切開術の利点 気管切開後は,気管挿管による呼吸管理と比較して,患者の快適性の向上,鎮静の必要性の減少や,効果的なコミュニケーションが得られ,口腔ケアも行いやすくなるので,呼吸管理上,多くの利点がある 1),2)。また,気管切開後には死腔および上気道の呼吸抵抗が減少するため 3),呼吸仕事量,最大吸気圧,内因性PEEP(positiveend-expiratorypressure)が自発および人工呼吸患者の両者で減少し,生理学的にも利点がある 4)。人工呼吸器からの離脱が困難であった気管挿管チューブで管理中の患者に対し,気管切開チューブへ変更した前向き臨床研究によると,離脱に関連するパラメーターは気管切開チューブへ変更後,有意に改善している 5)。また,気管切開チューブは気管挿管チューブより短いため,気道抵抗が減少するとともに,その曲率半径が短くて内面が滑らかなものは流動抵抗の低下にも寄与する 2)。さらに,気管切開チューブの直径が大きくなると,呼吸仕事量の軽減につながる 2)。❷気管切開術の注意点とその対策a)長い気管切開延長チューブに注意 基本的に気管切開後に死腔は減少するものの,一回換気量が少ない小児の気管切開後人工呼吸患者で,長い気管切開延長チューブが用いられる場合は,それが大きな死腔になるため 6),人工呼吸器設定を適切に行わなければならない。b)加温加湿が必要 気管切開後は吸気の加温加湿能力は低下するので 3),人工呼吸管理を行う場合は加温加湿器を使用し,行わない場合は人口鼻を気管カニューレに接続した方がよい。■■■■■■■Ⅵ 気管切開術後のケアⅥ
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