■ 気管切開術後に呼吸状態悪化を引き起こす主な合併症とその対応 気管切開術後,呼吸状態が悪化する主な合併症として,早期には肺炎,縦隔炎,敗血症,気管切開チューブの誤挿入・閉塞などがあり,晩期では,無気肺(重力に従って気道分泌物が背側に貯留するため),人工呼吸器関連肺炎などのほか,肺血栓塞栓症(長期臥床による),緑膿菌による慢性気道感染症(気管孔から細菌の侵入が容易になるため)などが挙げられる 8), 12), 13)。気管切開チューブの誤挿入や閉塞の際は,再挿入やチューブの交換が必要になる。気管切開術後にSpO 2の低下,胸部聴診にてcoarse cracklesや呼吸音の低下,気管切開チューブや気管孔から膿性気道分泌の吸引など,呼吸状態悪化の兆候が確認されれば,バイタルサインをチェックするとともに,血液検査(血液学,生化学,免疫血清学),胸部単純X線撮影(必要に応じて胸部CT),吸引痰塗抹・培養検査などを施行する。これらの検査で呼吸状態悪化の原因を検索し,呼吸器内科などと連携して適切な治療を行っていく必要がある。60 Chapter Ⅵ.気管切開術後のケア(岩永賢司)c)排痰介助や低圧持続吸引による気道クリアランスの維持 咳嗽の発生機序である,①深い吸気,②声門閉鎖および呼息筋収縮による胸腔内圧上昇,③声門開放と爆発的な呼気,の3相のうち,気管切開患者では第Ⅱ相の遂行ができないので,強い咳嗽ができない 7)。そのため,排痰介助が必要になる。重症神経難病患者に対しては,理学療法的な排痰補助(体位ドレナージ,用手排痰補助など)と機器を用いた排痰補助【機械的陽圧陰圧療法(mechanical insufflation-exsufflation;MI-E),肺内パーカッションベンチレーター(Intrapulmonary percussive ventilator;IPV),体外式陽・陰圧人工呼吸器,バイブレーションベスト】の組み合わせが推奨されている 8)。なお,MI-Eは気道に陽圧を加えるために,原則として,ブラのある肺気腫の既往,気胸や気縦隔の疑い,人工呼吸による肺障害のある患者に対しては禁忌となる。また,胸腔内圧の変化によって不整脈を誘発したり心不全が悪化したりする可能性があるため,これらの心疾患を有する患者に行う場合は脈拍とSpO 2のモニターが必須になる 8)。IPVでも,未処置の緊張性気胸の患者は禁忌となり,他の疾患・病態を合併している場合もMI-Eと同様な扱いとなっている 9)。 気管切開による人工呼吸が行われている患者のうち,約30%位までは誤嚥を起こしており,その多くは70歳以上であると報告されている 10)。また,重度心身障害者や神経筋疾患患者では,唾液がチューブのカフを越えて気管内へ誤嚥し,頻回の吸引が必要になる場合があり,介護者の負担が大きくなることが問題になる 11)。この問題に対し,近年,専用の気管切開チューブと低定量自動持続吸引器とを組み合わせた,低圧持続吸引法が導入されるようになり,夜間の喀痰吸引回数の減少に役立っている 8), 11)。
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