■ 気管カニューレ抜去困難症 カニューレの刺激により気管孔上部,後壁,カニューレ先端部の内壁に肉芽を形成した場合や,カニューレの圧迫で気管孔上方の気管前壁がつぶされた場合に新たな狭窄となり,カニューレを抜去できなくなる。特に高位気管切開で輪状軟骨あるいは第1気管輪を損傷した場合に生じやすい。適切な太さと角度のカニューレの選択とカニューレの位置の確認により新たな狭窄を防止することが必要である。 気管内,気管孔周囲の肉芽はレーザー切除や電気メス,バイポーラなどで処理し,高度の場合はステントとしてTチューブを内腔が確保できるまで挿入することもある。 また低い気道抵抗に慣れたため抜去により呼吸困難感が生じて抜去できなくなることもある。特に小児例に多い。抜去前にボタン型カニューレ(開孔部レティナ)などに変更後カニューレ孔に栓をし,高い気道抵抗に慣れてからカニューレを抜去することで解決できることが多い。5 病棟管理上の注意点(看護の立場から) 気管切開は,上気道の狭窄・閉塞,下気道の分泌物の喀出困難,人工呼吸管理が長期化する際の対応として行われ,長期間の管理を要する場合もある。病棟で気管切開患者を看護するうえで基礎的な知識が必要であるため,本項では,気管切開をした患者のリスク管理と日常生活の援助を中心に記載する。■ リスク管理❶気管カニューレの固定 気管切開は生命維持に直結し,気管カニューレの管理は気管切開患者を看るうえで重要なポイントとなる。特に気管カニューレの逸脱・迷入は死亡事例としても複数報告がされている。 術直後は頸部の浮腫を伴うなど,気管切開孔が安定していない時期であり,気管カニューレの再挿入が困難になる。そのため,術直後の気管カニューレの管理は特に重要である。気管カニューレは,付属の紐や固定ベルトで指1本分くらいのゆとりをもって固定されるのが一般的であるが,体型や器質的問題で抜去リスクが高い場合は縫合固定される。頸部の浮腫は時間の経過で軽減するため,紐や固定ベルトで固定している場合は緩みがないか密な観察が必要である。また,気管カニューレのフランジと皮膚の間にカットガーゼを挿入して皮膚の保護をする場合もあるが,カニューレの挿入部の観察が行いにくくなるため,必要なければ使用を控えるほうがよい。カニューレのフランジによる皮膚の損傷に対しては,ドレッシング材などを使用することで気管切開孔を覆わずに保護することもできる。❷気管カニューレが抜去してしまった場合 自発呼吸の有無,バイタルサインなどの確認と同時にドクターコールする。自発呼吸がない場合,気管切開孔をガーゼなどで閉鎖してバッグバルブマスクで換気を行い医師の到着を待64 Chapter Ⅵ.気管切開術後のケア(大上研二)
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