■ 日常生活の援助❶コミュニケーションの問題 発声ができないことによりコミュニケーション方法が変化する。多くの場合は文字盤や筆談であるが,近年はタブレットなどのデバイスを使用することもある。一般的なコミュニケーションスキルと同じように話を最後まで聞くことが重要であり,途中で内容がわかっても最後まで書いてもらうように心がける。また,返事がしやすいようにclosed questionを使用することが多いが,状況によっては時間を作ってopen questionでゆっくり思いを聞き取ることも重要である。❷清潔のケア ADLが拡大すると清潔ケアは入浴やシャワーを選択するようになる。しかし,シャワーや入浴の際の水の侵入は窒息につながるため工夫が必要である。シャワーを使用する場合は,気管孔をタオルやシャワーケープなどで覆い,水が直接気管孔へ当たらないように行う。また,自分で行えるように指導する場合は鏡が見えるようにするなど工夫が必要である。浴槽が広い場合,浴槽内での転倒や想定外の理由で気管孔に水が侵入する可能性があるため浴槽へ入ることは避ける。❸「いきむ」ことができない 気管切開により声門閉鎖による呼気コントロールができなくなり,排便時の「いきみ」ができなくなる。そのため,排便状況に応じて排便コントロールが必要になる。また,「いきみ」は胸腔と腹腔を安定させることで力を入れやすくし,これが障害されると重いものを持てないことや転倒しやすくなることが想定される。❹嚥下機能への影響 気管切開は,気管カニューレによる声門下圧の低下,喉頭挙上運動への影響,カフによる食道の圧排,気道感覚閾値の上昇などで嚥下機能へ影響を与える。気管カニューレは,カフ上部や気管孔からの吸引量などに合わせてカフがないものやボタン型を検討し,嚥下機能に注意しながら経口摂取を進める必要がある。■ 特定看護師が行う気管カニューレの交換について 特定看護師の特定行為としての気管カニューレの交換は,気管開窓術後,気管切開後2週を経過して瘻孔が完成した気管カニューレ装着中の患者が対象である。 患者の病状の範囲は,何らかの原因でのカニューレ抜去,カニューレの破損で交換が必要な場合,カニューレが乾燥した分泌物で閉塞した場合であり,実施した後に担当の医師へ連絡する必要がある。定期交換の場合は,事前に医師と役割分担を行い計画的に行う必要がある。気管切開術後のケア 67(青山寿昭)Ⅵ
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