外科的気道確保マニュアル 第2版
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1 はじめに 医療事故調査の目的は「再発予防」である 1)。また,気管カニューレ関連の事故は多岐に渡る 2)。本項では気管カニューレ関連の事故を振り返るとともに,その対策について述べる。2 気管カニューレの逸脱・迷入■ 事 例3) 60歳代の男性。リウマチ性間質性肺炎急性増悪の症例で,副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬を使用中であった。気管挿管下での人工呼吸器管理の長期化により,気管切開術施行となった。気管は逆U字切開で,気管壁と皮膚は縫合されていた。術後7日目,気管切開カニューレ交換を実施した。その3日後,病棟で体位変換を実施した際,気管カニューレのカフが見え,位置修正を試みたが再挿入・換気ができなかった。最終的に経口挿管となったが,すでに低酸素,縦隔気腫,両側緊張性気胸をきたしており,気管カニューレ逸脱後約1時間で死亡となった。■ 背 景 気管切開の術後早期における気管カニューレ逸脱は危険である。なぜなら,再挿入困難や迷入に直結するからである。医療事故再発防止に向けた提言書第4号「気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析 3)」では,死亡5例中4例は逸脱後に気管カニューレの再挿入ができず死亡していた。残り1例は再挿入まで長時間を要したため低酸素脳症をきたし,7日目に死亡していた。また,5例中3例は逆U字の気管切開で下方のみ気管と皮膚を縫合,1例は気管と皮膚の縫合をしていなかった(1例は不明)。気管カニューレの固定方法は5例中3例が付属の紐,2例が固定バンド・ネックテープであった。そして,死亡事案5例中4例は体位交換時に気管カニューレが逸脱していた。これ以外にも術後早期における気管カニューレの逸脱に関連する死亡事案が複数報告されている 4)〜6)。■ 対 策 術後早期の気管カニューレ逸脱対策の第一は「創傷治癒に配慮し,万一の逸脱が起きても,付 1 気管カニューレ関連の 事故からの教訓 付1

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