外科的気道確保マニュアル 第2版
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3 カニューレの閉塞■ 事 例7) 70歳代の男性。肺炎および呼吸窮迫症候群(acuterespiratorydistresssyndrome;ARDS)の症例で,糖尿病,肺気腫を合併していた。肺炎が重症化し,気管挿管下に人工呼吸器管理が行われていた。呼吸不全が改善しないため,気管切開術が施行された。鎮静下に人工呼吸器管理が行われていた。術後3日目,気道内圧上昇警報が鳴り,気管内吸引を試みるも,吸引チューブが挿入できなかった。そこで,喀痰による気管カニューレ閉塞を疑い,気管カニューレ交換を行った。その直後から換気ができなくなり,心停止となった。心肺蘇生を開始し,気管カニューレの再挿入を試みたがうまくいかず,経口挿管を行った。しかし,糖尿病による血管病変も強く,心拍再開せずに,死亡となった。■ 背 景 術後早期に気管カニューレが閉塞した場合,前述の「気管カニューレ逸脱・迷入」のリスク状況を医原的に作ることになる。つまり,術後早期は気管カニューレ閉塞が原因で,気管カニューレ交換が必要となる状況を避けなければならない。■ 対 策 防止策として二重管タイプの気管カニューレが有用である。二重管タイプは欧米で標準的に使用されている 8),9)。また,英国のガイドラインでは気管切開術後や臨床医が迅速に対応できない病棟では特に二重管タイプが推奨されている 9)。4 気管切開下陽圧換気での管理トラブル■ 事 例10) 80歳代。慢性呼吸不全で20年前から気管切開下に陽圧換気をされていた。自発呼吸あり,1年前に療養病棟に転入となった。セントラルモニターで酸素飽和度が低下したため,看護師が訪室,気道内分泌物を吸引したが酸素飽和度は改善しなかった。人工呼吸器の回路点検で,気管カニューレ接続部の呼気側に吸気側回路が装着されていたことがわかった。接続し直したが呼吸状態が悪化し,死亡となった。70  付1.気管カニューレ関連の事故からの教訓再挿入しやすい浅い気管孔を造ること」である。第二は「逸脱しないように,気管カニューレ中央と皮膚を縫合固定すること」である。第三は「体位変換時は必ず気管カニューレを抑え,後屈を予防し,気管カニューレを監視しながら複数人で行うこと」である。また,上気道閉塞時以外は経口挿管が可能な状況であることが多い。気管孔からの気道確保が困難と判断した場合,早急に経口挿管を検討すべきである。

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