■ 背 景 医療事故再発防止に向けた提言書第7号「一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析 10)」では8例の死亡事案が検討された。8例中3例が気管切開下陽圧換気(trachealpositivepressureventilation;TPPV)に関連する死亡事例であった。1例は気管カニューレの接続部が外れていた事例,1例は接続回路の誤り事例,1例は人工呼吸器の停止事例であった。吸気側と呼気側は回路の太さが同じで,どちらにも接続可能である。また,間違えていてもリークテストでは発見できない。■ 対 策 回路を正しく理解し,指差し確認,第三者確認など部門全体の意識を高めることが重要である。慣れに伴う不注意も原因となる。ガスの流れに沿って人工呼吸器のガス出口から呼気ガス入り口まで指で追うのが有効である 11)。5 気管腕頭動脈瘻■ 事 例12) 80歳代の女性。脳梗塞を発症し,搬送された。入院10日目に経皮的気管切開術が施行された。気管切開術から2カ月後,気管カニューレ交換時に気管孔から凝血塊が噴出,口腔からも血液が流出した。CT画像で腕頭動脈がやや高位にあり,気管孔上部の圧迫を外すと気管孔から拍動性出血を認めた。腕頭動脈穿孔部の縫合・前頸筋による縫合部の被覆を行い,その3週間後に腕頭動脈仮性瘤に対して人工血管置換・大胸筋皮弁再建術を施行した。しかし,その1カ月半後に人工血管中枢側吻合部の離開により,止血不能な出血を認め,最初の止血術から3カ月で死亡となった。■ 背 景 発症頻度は1%以下と低い 13),14)が,致死的になりえる 15)。気管切開後3週間以内の発症が70%以上 16)とされているが,長期間の管理中に気管カニューレ自体やカフの接触により気管壁が壊死し,隣接する腕頭動脈が破綻することによっても生じる。先・後天的理由により脳障害を持ち,長期間カフ付き気管カニューレが挿入されている症例で起こりやすい。このような症例では亀背や側弯などにより,気管カニューレと気管が適切な位置に収まりにくいことが多いことも誘因の一つである 17)。また,高位腕頭動脈症例も危険性が高くなる。人工呼吸器管理では気管カニューレの重さや振動により気管壁に強い圧がかかりやすくなる。6 おわりに 気管切開術では「気管を切開するまで」より,「気管を切開した後」が事故防止のためには重要であることがわかる。気管と皮膚の固定,気管カニューレの固定方法や種類の選択,人工気管カニューレ関連の事故からの教訓 71付 1
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