I.はじめにJ. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 1, 2022原 著要旨 下咽頭梨状陥凹癌に対し喉頭摘出を施行する際の気管傍リンパ節郭清について,患側の気管傍郭清については必須とされているが健側郭清の必要性については一定のコンセンサスは得られていない。今回,2005年1月から2015年12月に当科で喉頭摘出を伴う原発巣切除術を施行した下咽頭梨状陥凹癌117例を対象に,気管傍郭清の施行状況,気管傍リンパ節転移率,術後甲状腺ホルモン内服率,術後ビタミンD3製剤内服率,予後について後方視的に検討した。患側の気管傍リンパ節転移率は11.1%(117例中13例),健側の転移率は4.5%(22例中1例)であった。気管孔周囲再発を1例に認めたが化学放射線療法で制御されていた。気管傍郭清を両側施行した症例では患側のみ郭清した症例に比し,治療後の甲状腺ホルモン,ビタミンD3製剤の内服率が有意に高かった。臨床的に気管傍リンパ節転移が明らかでない下咽頭梨状陥凹癌に対し喉頭摘出を伴う原発巣切除術を施行する際,健側の気管傍リンパ節転移は稀であるため,患側甲状腺片葉切除+患側気管傍郭清(健側温存)は許容できる術式と考えられる。キーワード:下咽頭癌,気管傍リンパ節転移,気管傍郭清,甲状腺機能低下症, 連絡先著者:〒541─8567 大阪市中央区大手前3─1─69 受 付 日:2021年6月24日採 択 日:2021年9月9日大阪国際がんセンター 頭頸部外科宮部淳二II.目 的 下咽頭進行癌に対して喉頭摘出を行う際には,患側の甲状腺を切除し,少なくとも患側の気管傍リンパ節を郭清することが,ガイドライン上推奨されている1)が,健側についての記載はない。両側気管傍郭清を施行した場合,術後甲状腺および副甲状腺機能低下や気管への血流低下による気管壊死が危惧され,一方,健側甲状腺を温存し気管傍郭清を省略し1)大阪国際がんセンター 頭頸部外科副甲状腺機能低下症8た場合,気管孔周囲再発による根治性低下の可能性が否定できない。現時点では,患側の気管傍郭清については必須と考えられるが,健側郭清の必要性については一定のコンセンサスは得られていない2)。 当科では臨床的に気管傍リンパ節転移が明らかでない下咽頭梨状陥凹癌に対して,患側は甲状腺片葉を合併切除し気管傍郭清を施行し,健側については原則として甲状腺を温存し気管傍郭清を行わないことを方針としてきた。ただし,初回根治手術前に緊急気道確保等により気管切開を施行した症例,原発巣が正中を大きく超えている症例や尾側が頸部食道に進展している症例,甲状腺に広範に浸潤を認める場合や健側甲状腺の温存により切除マージンが近接日気食会報,73(1),2022pp.8─13宮部淳二1),林 計企1),篠田裕一朗1),木村隆幸1),是松瑞樹1), 音在信治1),藤井 隆1)下咽頭梨状陥凹癌に対する喉頭摘出術施行時における気管傍リンパ節郭清についての検討
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