日本気管食道科学会会報 第73巻1号
27/69

V.考  察図2 全体および気管傍リンパ節転移の有無,気管傍リンパ節郭清で層別化した生存曲線 下咽頭梨状陥凹癌の気管傍リンパ節転移率に関し,諸家の報告3〜5)では患側10〜30%,健側2〜6%であり,今回の検討においても同様の結果であった。下咽頭癌の気管傍リンパ節転移に影響を与える因子に関し,亜部位が輪状後部である場合は患側転移率が高く,頸部食道癌についても転移率が高いという報告6)がある。また下咽頭癌の気管傍リンパ節転移は外側域の頸部リンパ節転移と有意な相関を認めると報告3)されている。本研究においても気管傍リンパ節転移を認めた症例は全例pN2a以上であり,外側域のリンパ節転移を認める症例では患側の気管傍リンパ節転移を認める可能性が高いことが示唆された。今回,原発巣の進展範囲について検討を行っていないが,原発巣が進行した症例や輪状後部癌,頸部食道癌において気管傍リンパ節転移率が高い傾向にあるとの報告5, 6)があることから,健側の輪状後部や頸部食道へ浸潤を認める症例については,健側の気管傍郭清を省略するかを慎重に判断する必要があると考えられる。 治療後の甲状腺機能低下,副甲状腺機能低下について,両側郭清群では患側のみ郭清群に比し甲状腺11ホルモン,ビタミンD3製剤の内服率が有意に高率であった。特にビタミンD3製剤の内服率については患側のみ郭清群では8%であったのに対し,両側郭清群では77%と顕著な差を認めた。下咽頭癌治療後,甲状腺および副甲状腺機能が低下することが報告され,特に甲状腺切除,気管傍郭清の範囲,術後の放射線治療が機能低下に影響を与えると考えられている7〜9)。術後の副甲状腺機能を可能な限り温存しかつ気管傍リンパ節再発を予防するため,甲状腺半切除,両側気管傍郭清を行って副甲状腺機能を可能な限り温存する術式や摘出組織から副甲状腺を生体内へ移植する方法が考えられる。前者においては甲状腺を温存しつつ確実に気管傍郭清を行って甲状腺の血流を維持する必要があり高度な手術手技を要すると考えられる。また術後甲状腺に血流障害が生じた場合,組織の壊死が生じる可能性がある。また後者については,一般的に甲状腺乳頭癌において許容されている処置ではあるが播種などのリスクを考慮した場合に■平上皮癌にそのまま適応してよいかについて明確なエビデンスは存在せず慎重に検討する必要があると考えられる。 下咽頭梨状陥凹癌に対し喉頭摘出を伴う原発巣切除術を施行する際,central zoneの処理として根治日気食会報,73(1),2022

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る