日本気管食道科学会会報 第73巻1号
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I.はじめにJ. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 1, 2022症  例要旨 下咽頭梨状陥凹瘻は先天性の内瘻であり,比較的稀な疾患である。下咽頭梨状陥凹瘻の治療は手術が第一選択であり,過去に頸部外切開,経口的瘻孔焼■術,transoral videolaryngoscopic surgery(TOVS)による瘻管摘出術が報告されている。症例は13歳男児で,左前頸部痛を主訴に受診した。超音波検査で急性化膿性甲状腺炎の診断に至り,■刺排膿および抗菌薬加療を行った。炎症の消退後に下咽頭食道造影検査を施行し,左梨状陥凹から連続する1 cm程度の瘻管を認め下咽頭梨状陥凹瘻の診断となった。全身麻酔下にTOVSによる経口的瘻管摘出術を施行した。術後経過は良好で再発を認めていない。TOVSによる瘻管摘出術は外切開を必要としないため低侵襲であり審美面に優れている。さらに瘻管を摘出後に咽頭を縫合閉鎖することで感染を遮断し,根治性にも優れる術式であると考えられた。キーワード:下咽頭梨状陥凹瘻,下咽頭食道造影検査,経口的瘻管摘出術(TOVS)連絡先著者:〒210─0013 川崎市川崎区新川通12─1 受 付 日:2021年8月26日採 択 日:2021年10月14日川崎市立川崎病院 耳鼻咽喉科笠原 健II.症  例 下咽頭梨状陥凹瘻は下咽頭に生じる先天性の内瘻であり,若年者の反復する頸部膿瘍や急性化膿性甲状腺炎の原因の一つとしてあげられ,比較的稀な疾患とされている1)。感染反復例に対する根治治療としては手術療法が第一選択であり,過去の報告では外切開による瘻管摘出術が基本となる2, 3)。しかし近年は化学的あるいは電気的な経口的瘻孔焼■術4)の報告や,transoral videolaryngoscopic surgery(以下,TOVS)の手術手技による経口的瘻管摘出術5)の報告も見られるようになってきた。TOVSによる瘻管摘出術はKamideら6)によって2015年に1)川崎市立川崎病院 耳鼻咽喉科,2)佐野厚生総合病院 耳鼻咽喉科14初めて報告され,根治性と低侵襲を兼ね備えた治療として注目されているが,その報告に関しては未だ少ない。今回われわれは,13歳小児に対して経口的瘻管摘出術を施行し,術後経過の良好な症例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する。症 例:13歳,男児主 訴:左前頸部痛現病歴:X年7月に37℃台の発熱,咽頭痛を認めたため当院小児科を受診。超音波検査にて甲状腺左葉に腫瘤性病変を認めたため当院耳鼻咽喉科に紹介となった。既往歴:X−1年に亜急性甲状腺炎初診時所見:甲状腺左葉に一致して可動性良好な腫瘤を触知した。圧痛あり。超音波検査では甲状腺左葉に境界明瞭で内部に嚢胞性部分を含む12×20×12 mm程度の低エコー領域を認めた(図1)。血液生化学的検査ではWBC 7800/■l,CRP 1.37 日気食会報,73(1),2022pp.14─20笠原 健1),大久保啓介2),菅野雄紀2)下咽頭梨状陥凹瘻に対して経口的瘻管摘出術を施行した1例

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