日本気管食道科学会会報 第73巻1号
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図3 頸部造影CT軸位断左下咽頭から甲状腺上極にかけて,辺縁に造影効果を伴う低吸収域を認めており,膿瘍病変と考えられた(矢頭).図4 下咽頭ファイバースコープ検査Modified Killian体位にて下咽頭梨状陥凹を観察したが,明らかな瘻管を認めなかった.III.考  察度であることを確認した。ピオクタニンで瘻管を染色し,針型電気メスで瘻管周囲の粘膜を切開し,瘻管の剥離を進めた。瘻管は甲状軟骨下角の外側で,甲状咽頭筋を貫くように走行していた。瘻管近傍の甲状咽頭筋は一部壊死していた。瘻管の摘出を進めていくと,甲状咽頭筋の壊死部分より膿汁の漏出を認めた。そのため壊死部分よりやや外側で甲状咽頭筋を切断した。内部の膿汁および壊死組織を可及的に除去した。瘻管は甲状咽頭筋へと侵入する部分で,甲状咽頭筋を一部付着させる形で可及的に切除日気食会報,73(1),202216した。粘膜を4─0吸収糸で縫合し手術終了とした。病理組織学的所見(図6):検体は上皮で囲まれた管腔状構造であり,梨状陥凹瘻に矛盾しない所見であった。術後経過:術後2日目に施行した下咽頭食道造影検査では造影剤の漏出を認めず(図7),同日より経口摂取を再開した。その後も感染徴候や嚥下障害を認めず,術後7日目に退院となった。術後1年8カ月経過観察中であるが,創部の瘢痕形成や嚥下障害は認めず,声帯可動制限も認めていない。また感染の再発もなく経過している。 下咽頭梨状陥凹瘻は先天性異常で第3, 4, 5咽頭嚢の遺残といわれ,左側発生が多いが,稀に両側性の報告もある7)。年齢に関しては,初発年齢は幼少期が74%8),20歳以下が91.3%9)で大部分が若年発症である。下咽頭梨状陥凹瘻は瘻管開口部より瘻管内に細菌が侵入し,瘻管から生じた感染や炎症が周囲に波及し,急性化膿性甲状腺炎や頸部膿瘍をきたし,反復罹患する10)。 診断に関しては,この特徴的な臨床症状から本疾患を疑い,十分な消炎治療後に下咽頭食道造影検査を施行し,梨状陥凹から下方に描出される瘻管を確認することで確定診断となる11)。感染の急性期では瘻管が狭窄し描出できないことがあるため,抗菌薬

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