図7 術後2日目に施行した下咽頭食道造影検査(側面)左梨状陥凹からの造影剤の漏出はなく,瘻管の残存は認めなかった.プ検査で瘻管を同定し下咽頭梨状陥凹瘻を診断することは困難である13)。この理由として中多ら13)は,瘻管開口部は梨状陥凹の最深部にあるため確認が困難であると指摘している。頸部CT検査については,野津ら7)は炎症の存在は確認できるものの,解像度の問題等もあり下咽頭梨状陥凹瘻を確認するまでに至らなかったと報告している。同様に中多ら13)も下咽頭梨状陥凹瘻6例に頸部CT検査を施行し瘻管が確認できたのは1例のみであったとしている。このように,頸部CT検査においても常に瘻管が描出されるわけではないため,より簡便に行えて術後評価にも有用な下咽頭食道造影検査の方が下咽頭梨状陥凹瘻の診断には有用であると考えられる。本症例では下咽頭ファイバースコープ検査での瘻管の確認はできず,頸部造影CT検査では明らかな瘻管の確認は困難であった。 下咽頭梨状陥凹瘻の治療は手術加療が第一選択である。その理由としてMiyauchiら8)は保存的加療で経過をみた症例での再発率が38%に上ることを報告している。治療法は頸部外切開での瘻管摘出術,経口的瘻孔焼■術,TOVSによる瘻管摘出術の大きく3つに分かれる。外切開による瘻管摘出術は以前から多く行われてきた術式であり,本法は甲状腺上極付近から伸びる瘻管を同定し,結紮切離する。利点として瘻管を摘出することで感染経路を遮日気食会報,73(1),202218断できるため根治性が高いことがあげられる。一方,炎症反復例や膿瘍形成例では瘢痕により手術時に瘻管の同定が困難となり,結果的に瘻管が残存してしまい再発につながることもあるとされる14)。さらに反回神経麻痺や血管損傷による出血,創部感染の合併症のリスクが比較的高いとされ,特に8歳以下では多いとする報告もある15)。審美面に関しても,大部分が若年者であることを考慮すると外切開が望ましい術式とはいえない。 経口的瘻孔焼■術に関しては,直達喉頭鏡下の操作で瘻管開口部を電気焼■する方法16)やトリクロロ酢酸,硝酸銀による化学焼■術17),フィブリン糊による密閉術4)などの報告がある。経口的な手術であり皮膚切開を要しないことから低侵襲かつ審美面に優れるというメリットはあるが,開口部のみを癒着・閉鎖させ,瘻管自体は残存することから再発率は25%と比較的高いとする報告もある4)。また薬液の周囲粘膜への影響により瘢痕形成,音声・嚥下障害をきたす可能性もある。 TOVSによる瘻管摘出術は2015年にKamideら6),2017年に犬塚ら5)によって報告され,咽頭側の瘻管開口部周囲の粘膜を切開し瘻管に沿って周囲組織を剥離し,瘻管の切除を行う術式である。咽頭側の瘻管開口部は過去の感染による瘢痕化の影響を受けにくく,瘻管の同定が比較的容易であることや,切除後の創部を縫合閉鎖することで咽頭側からの感染を確実に遮断することができる点が利点である5)。さらに経口的な手術であるため瘻孔焼■術と同様に低侵襲かつ審美面で有利な面を持ち,根治性と低侵襲性を兼ね備えた術式とされている。一方で瘻管長が長い症例や拡張型喉頭鏡による展開ができない場合には適応外となることには留意する必要がある。犬塚ら5)が報告したTOVSにより瘻管を摘出した2症例では摘出検体の瘻管長はそれぞれ約1 cm,約5 mm程度であった。本症例での術前の下咽頭食道造影検査では瘻管長は最大約14 mm程度であり,犬塚らの報告と比較するとやや長いと考えられた。しかし,術中に瘻管長を改めて計測したところ約1 cm程度であり,切除可能と考えられたため予定通りTOVSによる切除を行った。 本症例では膿瘍形成および■刺排膿の既往があり,外切開法でアプローチした場合,癒着や瘢痕により瘻管の同定が困難となり,反回神経損傷のリスクも比較的高いと考えられた。また下咽頭食道造影
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