日本気管食道科学会会報 第73巻1号
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V.考  察IV.治  療複数であることや,血腫が巨大であり出血源同定が困難なことなどから,血管外科より手術は適応外との診断であった。このため脳神経外科および放射線科による出血源検索を兼ねたinterventional radiog-raphy(IVR)を緊急で行う方針となった。 血管造影:右大■動脈からアプローチし右鎖骨下動脈からの造影で胸肩峰動脈,右外頸動脈からの造影で上行咽頭動脈からの造影剤漏出を認めた(図3)。 出血源がわかったため,引き続きtranscatheter arterial embolization(TAE)を行った。右胸肩峰動脈は,Hilal®エンボライゼーションコイル2.0 mm/2 cm,近位はTornado®エンボライゼーションコイル3 mm/2 cm,さらに近位にC-STOPPER COIL 6 cmで,上行咽頭動脈はTarget® 360 nano 1.5 mm/3 cm,Target® helical nano 1.5 mm/3 cmを用いてコイル塞栓を行い,出血がなくなったことを確認した。処置中はショックバイタルであったため,輸液と輸血(濃厚赤血球12単位)のポンピング,昇圧剤を併用した。TAEにより,気管切開孔および鼻咽腔からの出血が改善し止血が得られた(図4)。TAE後は出血性ショックに伴う多臓器不全のためICU入室となり,心不全,呼吸不全に対(A)図3 血管造影検査(A)右上行咽頭動脈と(B)右胸肩峰動脈からの出血を認める(矢頭).23しての加療を継続し,処置後14日目に一般病棟へ転棟した。35日目には頸部腫脹の改善(図5)を認め45日目に理学および嚥下リハビリテーション目的に他院へ転院となった。その後の再出血は認めていない。 NF-1は,17番染色体長腕(17q11.2)の原因遺伝子産物・neurofibrominの機能異常による常染色体優性遺伝疾患である。皮膚にはcafé au lait spot(カフェオレ斑)と呼ばれる色素斑や神経線維腫を生じ,骨病変,眼病変,脊髄腫瘍など多彩な病変を呈する1)。その中でも,1〜10%で動脈狭窄,動脈瘤,動静脈瘻,動静脈奇形などの血管病変を合併することが知られている2〜4)。そのうち,好発部位としては肋間動脈,鎖骨下動脈およびその分枝,内胸動脈との報告5)がある。筆者が渉猟しえた頸胸部領域に発生したNF-1に伴う動脈出血症例は20年間(2000〜2020年)で国内外で32例(うち自験例1例)であった3〜27)(表1)。発症年齢は35歳〜75歳で,中央値は51歳であった。発症部位を比較すると,頸動脈由来の出血が12例,肋間動脈由来が13例,鎖骨下動脈由来が7例であった。出血源は,動脈瘤破裂や動脈断裂に伴う破綻が多く報告されており,まれに動静脈瘻からの出血も認めた。今回解析日気食会報,73(1),2022(B)

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