日本気管食道科学会会報 第73巻1号
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I.はじめにJ. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 1, 2022症  例要旨 症例は66歳,男性。2007年にStage IVa胸部中部食道■平上皮癌に対して化学放射線療法(CDDP+5-FU療法+60 Gy)を施行し完全奏効となったが,2016年に食道胃接合部腺癌と診断された。切除範囲に照射部位が含まれていたが,左開胸開腹下部食道噴門切除,食道空腸,空腸胃管吻合(空腸間置)術を施行した。食道空腸吻合部の縫合不全を認めたが,縫合不全部を介した間欠的な膿瘍ドレナージおよびに縫合不全部の減圧,経腸栄養の併用により,膿瘍腔は徐々に縮小し縫合不全は治癒した。今回われわれは,根治照射部位における縫合不全に対して,縫合不全部を介した膿瘍ドレナージにより保存的に改善した症例を経験した。本症例に対して,文献的な考察を加え報告する。キーワード:食道癌,根治的化学放射線療法,食道胃接合部癌,サルベージ手術, 連絡先著者:〒830─0011 久留米市旭町67番地 受 付 日:2021年4月23日採 択 日:2021年7月14日久留米大学医学部 外科学講座藤﨑正寛II.症  例 Stage IVa食道癌に対し根治的化学放射線療法(definitive chemoradiotherapy:dCRT)が一般的に行われる。予後は不良であるが,完全奏効に至る症例も少なからず認められる1)。食道癌患者は重複癌を認める症例も多く,重複癌で死亡する例も少なくない2)。そのため完全奏効に至った症例は再発・再燃のみならず重複癌の検索も必要である。 今回われわれは,Stage IVa胸部食道癌に対し化学放射線療法で完全奏効となった8年後に食道胃接合部癌を発症した症例を経験した。根治切除を施行したが術後に縫合不全を認め,経鼻経食道的膿瘍ド1)久留米大学医学部 外科学講座縫合不全29レナージにより治癒した。本症例に対して,文献的な考察を加え報告する。症 例:66歳,男性主 訴:特記事項なし。既往歴:57歳,食道癌Mt,6 cm, 2型,高分化型■平上皮癌,cT4b(左主気管支),cN2(No. 107, No. 109L),cM0,cStage IVaに対し,化学放射 線療法(CDDP+5-FU(CDDP:42 mg/body/day 1,8,CDDP:10 mg/body/day 2─5,9─12,5-FU:500 mg/body/day 1─5,8─12)計2コース+60 Gy)を施行した(照射範囲 図1)。その8カ月後にNo. 101R─No. 106recRに再発を認め,頸部・上縦隔リンパ節に対し化学放射線療法(CDDP+5-FU(CDDP:10 mg/body/day 1─5,8─12, 5-FU:500 mg/body/day 1─5,8─12)計2コース+60 Gy)を再度施行した(照射範囲 図2)。その後,完全奏効と診断した。日気食会報,73(1),2022pp.29─35藤﨑正寛1),的野 吾1),森 直樹1),日野東洋1),最所公平1), 中川将視1),田中寿明1),赤木由人1)切除不能食道癌に対する化学放射線療法後に 発症した食道胃接合部癌の1切除例

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