日本気管食道科学会会報 第73巻1号
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図4 切除標本肉眼所見および病理組織学的所見(a)腫瘍長径1.5 cm,0-IIa+IIc型,癌の中心は食道胃接合部上に位置しており,Siewert分類のType IIであった.(b)既存の胃粘膜(写真左)と連続した異型腺組織の発生を認め,表層(写真中央上)では不整形な管状構造がみられるが,浸潤部(写真右下)では充実胞巣を形成する低分化腺癌の形態を示していた.(c)炎症に伴う粘膜筋板のほつれがみられたが,円柱上皮領域の食道上皮の介在,固有食道腺の存在などは認めず,積極的にBarrett食道と言及できる所見は認めなかった.歯より30 cmの食道後壁に前回の治療後瘢痕を認めたが,ルゴール染色にて不染帯は示さなかった。胃粘膜生検でH. pylori菌体が確認された。食道造影検査所見:主病巣の描出はできなかった。頸胸腹部造影CT所見:主病巣は同定できなかった。リンパ節転移や遠隔転移を疑う所見も認めなかった。PET-CT所見:腫瘍部に一致してSUVmax=2.9の異常集積を認めた。 以上より,食道胃接合部癌0-IIa+IIc,cT1b,cN0,cM0,cStage Iと診断し,左開胸開腹下部食道噴門切除,食道─空腸,空腸─胃管吻合(空腸間置)術を施行した。手術所見:左胸腔内および縦隔内には放射線治療による癒着はなく,胸膜および腹膜に播種は認めなかった。縦隔の郭清上縁は下肺静脈上縁レベルとし,No. 108の一部を含めた下縦隔リンパ節と腹腔内リンパ節(2群まで)の郭清を行った。再建空腸は結腸後経路で食道裂孔を通し,胸腔内に挙上した。食道空腸吻合は胸腔内で端側吻合(器械吻合)を行い,空腸胃管吻合は腹腔内で側々吻合(Albert-Lembert)を行った。余剰大網で大網弁を作製し食道空腸吻合部まで挙上し,大動脈と吻合部の間に充填し,さらに吻合部を被覆した。切除標本肉眼所見:腫瘍長径1.5 cm,0-IIa+IIc型,癌の中心は食道胃接合部上に位置しており,Siewert分類のType IIであった(図4a)。病理組織学的所見: 既存の胃粘膜と連続した異型腺組織の発生を認め,表層では不整形な管状構造がみられるが,浸潤部では充実胞巣を形成する低分化腺癌の形態を示していた(図4b)。食道胃接合部では,炎症に伴う粘膜筋板のほつれがみられたが,円柱上皮領域の食道上皮の介在,固有食道腺の存在などは認めず,積極的にBarrett食道と言及できる所見は認めなかった(図4c)。 以上より,最終診断は食道胃接合部癌E=G,1.5 cm,0-IIa+IIc,低分化型腺癌,pT1b(pSM1),INFb,ly1,v1,pIM0,pPM0,pDM0,pRM0,pN0(0/40),sM0,fStage I(食道癌取扱い規約,第11版)であった。術後経過:術後9日目の上部消化管造影検査で,食道空腸吻合部の左側から水溶性造影剤の流出を認め,縫合不全と診断した(図5a)。縫合不全部の減圧目的に経鼻的に縫合不全部近傍にチューブを留置31した。チューブ先端付近には,唾液や逆流した腸液の吻合部への曝露を極力抑えるため,2カ所の側孔日気食会報,73(1),2022

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