術後に早期再発をきたす症例も報告5)されており,サルベージ手術の適応には慎重な判断を要する。われわれは,サルベージ食道切除術の意義はdCRTが有効な症例の再発例で,かつ治癒切除可能例のみにあると報告6)している。一方,原発巣以外の再発に関しては,食道切除を伴わない転移巣切除のみで良好な成績が得られたとの報告例が散見7, 8)される。われわれも,dCRT後に原発巣がCRで,リンパ節にのみ遺残もしくは再発した症例に対してR0手術が達成できるなら,食道切除症例と予後に差がないということを報告9)しており,転移リンパ節切除単独もサルベージ手術の1つと考えている。 食道癌に対する放射線治療歴を有する症例で,切除範囲が放射線照射部位を含む頭頸部癌や食道胃接合部癌など,異時性重複癌に対する手術もサルベージ手術の一種として考えられる。本症例は2007年のdCRT時に上〜下縦隔に計60 Gyの放射線を照射した。当初は左主気管支に腫瘍が浸潤しており(cT4b),化学放射線療法(計36 Gy照射)によるT4解除後の根治切除を目指していた。そのために照射範囲を狭め,頸部照射を行っていなかった。患者の食道温存の希望などもあり,追加照射(計24 Gy)による化学放射線療法を継続した。その後,2008年時にNo. 101R─No. 106recRリンパ節に再発を認めたが,再度頸部・上縦隔照射(計60 Gy)を伴う化学放射線療法を施行し,完全奏効に至った。8年後の食道胃接合部癌の手術時には下縦隔の郭清図6 図5bのシェーマ33範囲と食道切離・吻合部が2007年の化学放射線療法時の照射範囲の一部に含まれていた。術中の肉眼所見では放射線照射の影響はないと判断したが,縫合不全を合併した。森田らはサルベージ手術における縫合不全の発生について,吻合部が照射野内に入っている症例では11例中8例(72%)に縫合不全を認めたが,照射野外の症例では7例全例で認めなかったと報告している10)。胸腔内での縫合不全を避けるためには,食道亜全摘を伴う胸壁前または胸骨後経路による胃管や回結腸再建(または空腸再建)も選択肢の1つとは考えられる。しかしSiewert Type II食道胃接合部癌に対する手術の観点,およびにサルベージ手術による気管血管系の合併症発生の観点からは,過大侵襲となる恐れがある。 食道胃接合部癌の手術術式は各施設で異なり,未だ一定の見解が得られていない。われわれは,No. 110リンパ節を遺残なく十分に郭清し,下肺静脈レベル(No. 108の一部を含める)までを郭清する目的と,安全に吻合を行う目的で,左開胸開腹連続切開アプローチによる下部食道噴門切除を基本術式としている。再建臓器には胃管を用い,術後の逆流を予防するため,可能な限り空腸間置を行うこととしている。また,下部食道噴門切除後の吻合部は大動脈と隣接することが多く,縫合不全を併発すると,頻度は少ないものの大動脈の■通が危惧される。われわれは,以前に縫合不全が原因で大動脈に■通した症例11)を経験したため,それ以降は余剰大網を用い大網弁を作製し,胸腔内に挙上して吻合部と大動脈の間に充填し,さらに吻合部を被覆している。 近年手術手技の向上や,周術期管理,治療器具の進歩により安全性が向上したものの,食道切除再建術における縫合不全の発症率は12.5%と高率である12)。縫合不全に対しては,非侵襲的処置による保存的加療が基本であるが,状況に応じて手術などの侵襲的処置が必要であり,そのタイミングが重要である。 縫合不全に対する手術以外の処置として,内視鏡下に全層縫合器(Over-The-Scope-Clipping Sys-tem:OTSC)を使用する報告13)や,フィブリン注入による瘻孔閉鎖の報告14)がある。また本邦では保険適用とはなっていないが,カバー付きステントの有用性も報告15)されている。本症例のように,経鼻的にチューブを挿入し,縫合不全部を介して膿瘍腔内にチューブを留置しドレナージを行う報告は日気食会報,73(1),2022
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