日本気管食道科学会会報 第73巻1号
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I.はじめにJ. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 1, 2022症  例要旨 今回われわれは,約20年前に施行した気管切開術の晩期合併症と考えられる傍気管嚢胞症例を経験した。症例は71歳男性。大動脈解離の治療中に気管切開術を施行された。その後,気管切開孔は閉鎖し,以後症状なく経過した。約20年後,感冒を機に前頸部の腫脹および■痛が出現した。■刺吸引により,■痛は軽快したが腫脹は残存した。他科で実施した頸胸部CTで気管前方に嚢胞性病変を認め,当科を受診した。保存的加療で改善なく,外科的切除を行った。術後病理検体では2つの異なる組織像をもつ内腔を認めた。一方は気管憩室と合致する所見を有し,他方は単純嚢胞の所見であった。病理所見と文献的検討により,気管切開後閉鎖不十分であった気管切開から気管内腔粘膜が逸脱し気管憩室が形成され,気道感染を契機に憩室周囲に気管内の空気が漏出し,仮性嚢胞をきたしたものと考えた。気管切開術に続発して気管憩室を形成した報告は過去に見られないが,術後の治癒過程を考慮すると顕在化していないだけで同様の気管憩室症例が存在する可能性は高いと考えた。気管切開の既往があり,症状を有する患者がいれば,頸胸部CT画像の詳細な読影を行い気管憩室の有無を検索すべきと考えた。キーワード:気管切開術,晩期合併症,傍気管嚢胞,気管憩室連絡先著者:〒211─0035 川崎市中原区井田2─27─1 受 付 日:2021年4月1日採 択 日:2021年6月8日川崎市立井田病院 耳鼻咽喉科此枝生恵II.症  例 今回われわれは約20年前に施行した気管切開術との関連が疑われる,気管憩室および皮下嚢胞を生じた症例を経験した。気管切開術に続発した同様の報告は過去になく,特異な症例と考えた。本症例の経過・術後病理所見に基づき,その発症過程について考察し,報告する。1)川崎市立井田病院 耳鼻咽喉科,2)けいゆう病院 耳鼻咽喉科,3)足利赤十字病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科,4)慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科学教室36日気食会報,73(1),2022pp.36─42此枝生恵1), 2),佐々木俊一3),小川 郁4)症 例:71歳,男性主 訴:前頸部を押すと異音が生じる。既往歴:解離性大動脈瘤,糖尿病,睡眠時無呼吸症候群に対しCPAP;Continuous Positive Airway Pressure治療中,前立腺癌,腎臓癌現病歴:約20年前に解離性大動脈瘤に対し加療を受け,その経過中に気管切開術を施行された。全身状態が改善したのち皮膚縫合を行い,気管孔は閉鎖された。この入院中に糖尿病と睡眠時無呼吸症候群を指摘され,それぞれ経口糖尿病薬およびCPAPによる治療が開始された。その後,有害事象なく経過していたが,当科初診2カ月前,咽頭痛・咳など気管切開術の晩期合併症として頸部気管憩室を 生じたと考えられる1例

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