日本気管食道科学会会報 第73巻1号
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図1 喉頭ファイバーで声門下を観察した所見.第2─3気管輪に瘢痕様の膨隆を認め,周囲に気道粘液が付着している.喉頭ファイバーの可動域に制限があるため,気管外との交通,瘻孔の有無については観察できなかった.表1 頸部CT所見の経時的変化の感冒様症状を自覚した。それに引き続き,気管切開後の創部に硬結が生じ,■痛も自覚した。近医耳鼻科を受診し,硬結部位から■刺吸引処置を受けた。それにより硬結は軟化し■痛は軽快した。しかし同部位を用手圧迫すると異音(患者本人の表現では「カエルの鳴き声のような音」)を生じるようになった。本症例は前立腺癌・腎臓癌の治療後経過観察を目的として経時的に胸腹部CT検査を行っており,当科初診2週間前にCT検査を実施したところ,気管近傍に嚢胞様病変を認めた。後方視的に確認すると3カ月前(感冒発症1カ月前)に実施したCTでも気管前壁に空気と等吸収な数mmの領域を認めたが,増大傾向にあり,また用手圧迫による異音という自覚症状があったことから,精査加療目的に当科を紹介受診した。初診時身体所見:前頸部皮膚に瘢痕を認め,触診で皮膚直下に緊満性の高い腫脹を触れた。圧迫により容易に陥凹するものの早期に緊満性を回復した。喉頭ファイバー所見(図1):喉頭麻酔を実施し,声門下まで観察した。第2─3気管輪に瘢痕を認めたが,明らかな気管外との交通は同定できなかった。頸胸部CT所見:当科初診3カ月前,前頸部腫脹を生じる1カ月前の画像では第2─3気管輪の高さで,気管前壁の前方への偏位を認めていた(表1-1a, b)。当科初診2週間前の画像では,皮下に連続する嚢胞性病変を認めた(表1-2a, b)。当科初診3カ月後の画像では,嚢胞性病変は拡大傾向を見せ36×26 mm大となった(表1-3a, b)。37日気食会報,73(1),2022その後の経過:CT所見および喉頭ファイバー所見より,過去の気管切開術と関連して発生した後天性気管憩室の発生を疑った。まずは保存的治療を試み,前頸部を圧迫固定し,更なる空気漏出を抑制するため睡眠時無呼吸症候群に対し実施していたCPAP療法を中止したが,その後も徐々に皮下の腫脹が増大したため(表1-3a, b),外科的手術を行う方針とした。手術所見:全身麻酔下に実施した。皮膚瘢痕部を合併切除するため,楔状の切開線を設定した(図2)。皮膚切開後,皮膚から深層にかけて瘢痕組織が存在

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