日本気管食道科学会会報 第73巻1号
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 反回神経麻痺は甲状腺手術において重要な克服すべき術後合併症の一つである。一般に一過性の反回神経麻痺は6%,永久的反回神経麻痺は1%程度と報告されている。反回神経は迷走神経から分岐し,輪状甲状筋を除く喉頭内筋の大部分を支配するが,喉頭内で細かく分枝して各々の喉頭内筋へと走行すると考えられてきた。 反回神経が喉頭侵入する前に分枝する症例:喉頭外分岐(extra laryngeal branching: ELB)があることも報告されてきたが,その頻度については各文献によって大きく異なっており,評価は一定していない。このELBに関するバリエーションの多さは医原性の神経損傷のリスクとして重要な意味を持っている。 本報告の目的は頸部手術における神経損傷を予防するために必要なELBの解剖学的な特徴を包括的にエビデンスに基づいて評価することである。 方法:包括的なデータ検索により反回神経の喉頭外分岐に関する論文を抽出し,喉頭外分岐の頻度,分岐パターン,分岐ポイントと喉頭入口部の距離,前枝・後枝における運動ニューロンの有無など,関連するデータについてメタ解析を行った。 結果:Pubmed,EMBASE,ScienceDirect,Chi-na National Knowledge Infrastructure (CNKI),SciELO,BIOSIS,Web of Science等のデータベースから“recurrent laryngeal nerve”,“inferior laryn-geal nerve”,“anatomy”,“variation”,“branch-ing”,“division”,“Galenʼs anastomosis”等で検索した2838編の論文からフルテキストでヒットした328編を抽出した。さらにメタ解析論文に絞り込んだ結果,全部で69編の論文(28387枝)を対象と45した。術中所見および献体解剖所見に基づいた報告の両方について解析に含めた。 全体でELBの頻度は60%(95%CI 52.0─67.7)であった。解剖所見群と術中所見群での発生頻度は各々73.3%(95%CI 61.0─84.0),39.2%(95%CI 29.0 ─49.9)と乖離がみられた。左側での発生頻度は56.6%(95%CI 43.6─69.2),右側は58.5%(95%CI 45.1─71.3)と差異はみられなかった。 反回神経分岐のパターンとして最も頻度が高かったのは2本分岐(61.4%)で,続いて分岐なし(23.4%),3本分岐(9.0%),さらに複数分岐(6.5%)であった。 反回神経の分枝ポイントは喉頭入口部(輪状甲状関節下端)手前1─2 cmの頻度が最も高く(74.8%),0─1 cm(15.4%),2─3 cm(6.0%)の順であった。 前枝の99.9%に運動ニューロンが分布するのに対し,後枝は感覚ニューロン主体であり,運動ニューロンが含まれていたのはわずか1.5%であった。 結論:ELBに関する術中所見の過去の報告は十分ではないが,本論文の結論として反回神経の解剖学的走行には60%と高頻度に変異がみられること,2本分岐の頻度が最も高く,分岐ポイントは輪状甲状関節下端から2 cm以内が多いこと,運動ニューロンはほとんどの症例で前枝に含まれることがわかった。実際の手術においてELBの可能性について正確に理解して予測することで医原性の神経障害や長期的な術後合併症を予防していくことが大切である。 (国立病院機構四国がんセンター 頭頸科・甲状腺腫瘍科 門田伸也)日気食会報,73(1),2022analysis of 28387 Nervess00423-016-1455-7外国文献紹介(抄録)外国文献紹介(抄録)題 名: Extralaryngeal Branching of the Recurrent Laryngeal Nerve: A Meta-著者名:Henry, B.M., Vikse, J., Graves, M.J., et al.誌 名: Langenbeckʼs Archives of Surgery 401:913─923, 2016 doi10.1007/

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