耐久性の低下といったCOVID-19の病態自体に加え,感染対策上ケアやリハビリテーションは必要最低限に限られ廃用をきたしやすいことが考えられた。また,介入手法が限られることから,食事形態を通常の基準よりも下げて誤嚥による呼吸器症状の遷延を防ぎ,一日も早く一般病院での積極的なリハビリテーションにつなぐ意図的な要因も存在した。4. 第5波におけるコロナ専門病院の実際と嚥下障害診療に携わる医師の役割 2021年7月に入り,COVID-19患者は爆発的に増加した。当院においても,重症例の急増によりCOVID-19患者がICUからあふれだし,一般病棟で挿管・人工呼吸管理や気管切開が行われた。人工呼吸器やネーザルハイフローの台数は限りがあり,連日重症カンファランスが開かれ,集中治療の対象となる症例のトリアージが行われた。医師や看護師の離職や主に外科系診療科を中心とした大学医局からの専攻医の派遣の休止が生じ,大規模ワクチン接種会場やホテル療養患者の診療,東京五輪の特設診療所への医師・看護師派遣も重なり,ハードもソフトも両面から医療資源は限界状況に達し,スタッフはバーンアウトのリスクにさらされた。 第5波では,ワクチン効果による感染状況の変化により,感染者の年齢構成は中年層が中心であった。当センターの介入状況も,対象13例の平均年齢は73.2歳と第4波までに比し10歳以上若かった。介入経路は,看護師からの依頼は31%にとどまり,気管切開や病棟カンファランス,リハビリテーション依頼からピックアップし,センター側から介入を提案した症例が70%近くに上った。FOISは入院前が6.6であったが,退院時は4.7まで低下していた。「災害医療」の状況では,限られた資源で最大多数の患者の救命,良好な予後を追求し,個別の治療は制限を受ける。第5波における重症例の急増のなかで,嚥下障害への対応は限定的にならざるを得ないのが実情であった。また,複数回の異動や専門外の診療やケアの長期化による現場の疲弊は,従前の診療システムの空転ももたらした。 このような危機的状況下では,嚥下障害診療に携わる医師には,以下のような役割を果たすことが求められる。 ①嚥下障害の知識・情報の共有:特に病棟看護師を対象に,病態や治療法,感染対策を説明する。 ②介入方策の模索:従前の介入システムだけではなく,病棟や重症カンファランスから介入症例をピックアップする。 ③各職種の特性に基づく役割の提案:嚥下障害診療を専門とする医療職は,必ずしも急性期感染症治療の専門的知識を有するわけではない。気道感染症の専門的立場から,各職種への情報共有を行い,業務の特性を理解したうえでの助言や職務内容の提案を行う。 ④医療安全管理:嚥下障害や気管切開の管理に不慣れな医師や看護師が担当にあたることを念頭に,食事形態や気管切開管理の指示は明確かつ複数回,複数の目を通しての確認を行う。 ⑤丁寧なコミュニケーションと共感:嚥下障害への関わりは,多くの診療科にまたがることから,各病棟の状況を俯瞰的,客観的に見ることができる。嚥下障害への対応が困難となっている病棟は,スタッフの疲弊が進んでいる病棟である場合が多い。丁寧なコミュニケーション,共感を持った対応を心がけ,必要に応じて管理部門へ環境改善の提言を行う。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。文 献日気食会報,73(2),2022表1 第3波当時のCOVID-19診療の課題1) 日本嚥下医学会:新型コロナウイルス感染症流行期における嚥下障害診療指針.https://www.ssdj.jp/new/detail/?masterid=113(2022/3/8アクセス).138
元のページ ../index.html#102