日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション3嚥下性肺炎のリスクと予防本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。 このセッションではこの学会のメインテーマの一つである,誤嚥と嚥下性肺炎の問題を取り上げていただいた。平時でも嚥下性肺炎は難治性のことが多く,肺炎の制御に難渋することが多い中,今般の新型コロナパンデミック下での嚥下障害の治療は困難を極め医療従事者が危険にさらされたことをわれわれは忘れてはならない。 健常者の多くは大なり小なり不顕性のmicroaspi-rationを繰り返しているが,必ずしも皆が肺炎になるわけではない。潜在的なホスト側の要因を考慮した口腔ケアや肺炎球菌ワクチンの適応などが議論された。一方で,摂食嚥下に伴う誤嚥そのものを防止するために,病態に応じた嚥下物の物性が重要であり,とろみやゼリーなどの濃度やまとまりやすさを科学的に検証することが重要であることが示された。 また,食道癌治療後の誤嚥と肺炎の問題も古くて新しい問題である。それは,食道癌手術に伴う反回神経麻痺による声門閉鎖不全が誤嚥の大きな要因となり,同時に咳嗽効率の低下を招くことにより肺炎が重症化することに繋がっていた。今回のパネルディスカッションでは,癌の治療成績を落とすことなく反回神経の機能を温存する鏡視下手術やロボティックサージャリーなど外科手術侵襲を最小化するテクノロジーのイノベーションともいえる発表には目を見張るものがあった。誤嚥と嚥下性肺炎のリスクが事前に予測され,肺炎の予防が期待できる内容であった。 各パネリストの講演の要旨は以下の通りで,耳鼻咽喉科・頭頸部外科,呼吸器内科の立場から,嚥下性肺炎の成因・リスクファクター・予防法,COV-ID-19蔓延下における状況をご講演いただくととも139に,食道癌術後にとくに問題となる術後肺炎について2名の食道外科の先生にご発表いただいた。 上羽瑠美先生は嚥下・摂食の観点から,リスク因子を明らかにし,予防のための食事形態“とろみ”に関して解説された。さらに,COVID-19蔓延と嚥下性肺炎の関係について,さまざまな切り口から分析し対応策を提示いただいた。 寺本信嗣先生は誤嚥および嚥下性肺炎のほか,嚥下性肺炎の発症のメカニズムについて基礎研究を提示しながら解説された。すなわち,嚥下性肺炎に誤嚥のみならず,細菌感染,肺水分量,繊毛の動き,骨格筋減少などが関与するとともに,先行するウイルス感染の重要性も強調された。それらのデータをもとに肺炎の予防法について理論的に解説された。 食道外科医からは低侵襲手術が食道癌術後の嚥下性肺炎の発症率低下に繋がっているとの発表があった。後藤裕信先生は胸腔鏡下に,坊岡英祐先生はロボット支援下に食道切除を行うことで反回神経麻痺の頻度が低下し,嚥下性肺炎が予防できることを示された。総合討論では,嚥下性肺炎の発症に反回神経麻痺を回避することが最も重要であるが,喉頭挙上の制限,口腔内衛生,筋力低下等も重要であり,手術操作のみならず,口腔ケア,嚥下訓練を含むリハビリ等のチーム医療の重要性が討論,強調された。 本セッションは嚥下性肺炎の成因,それにもとづく予防法・対処法がそれぞれの立場から示され,非常に有意義で本学会員の皆様の理解が深まったことと思う。座長としてパネリスト各位に深謝いたします。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。日気食会報,73(2),2022pp.139─145パネルディスカッション3「嚥下性肺炎のリスクと予防」司会者のまとめ梅﨑俊郎 福岡山王病院 耳鼻咽喉科,国際医療福祉大学 言語聴覚学科森田 勝 九州がんセンター 消化管外科

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