日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション3嚥下性肺炎のリスクと予防第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録東京大学 1)摂食嚥下センター,2)耳鼻咽喉科・頭頸部外科 高齢化率が約3割となった現在,脳卒中や認知症,がん治療後などさまざまな原因による嚥下障害患者が増加しており,医療・介護施設・在宅では,摂食・嚥下障害に対して対応が必要な場面が非常に多くなっている。さらに,本邦では2020年から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延し,医療体制が■迫した地域も少なくない。特に,通常の医療を受けることが難しい状況では,誤嚥による肺炎を極力予防する意識や注意が患者自身や介護者に求められる。誤嚥の危険を減らし経口摂取を継続するための対策として,摂食・嚥下機能を考慮した食事形態や食品物性の調整,摂食姿勢の調整などがある。嚥下障害患者に対する機能補助食品として,とろみ調整食品で液体の粘性調整が,ゲル化剤で食品の固形化(ゼリーなど)が可能である。しかしな140がら,これらの使用方法に関する理解が乏しいまま臨床現場で使用されている実情がある。本講演では初めに,東大病院の患者データを基にした誤嚥のリスク因子や,液体へのとろみ付加による嚥下障害への効果,とろみ付加を必要とした嚥下障害患者の嚥下機能と適切なとろみとの関連を述べる。次に,各とろみ調整食品やゲル化剤に関して食品科学的検証をもとに解説し,嚥下機能評価後の指導や食上げにおける注意点を説明する。最後に,COVID-19重症患者の嚥下障害への当院での対応や,COVID-19後の重度嚥下障害患者の治療経過についてお話させていただく。本講演が,「新型コロナウイルス感染蔓延下で誤嚥による肺炎を予防するために,われわれにできることは何か」をもう一度見直していただくきっかけになれば幸いである。日気食会報,73(2),2022新型コロナウイルス感染症蔓延下での嚥下性肺炎予防上羽瑠美1), 2)

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