J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション3嚥下性肺炎のリスクと予防本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。 嚥下性肺炎の定義については,日本呼吸器学会のガイドラインでたびたび取り上げられており,1999年の院内肺炎ガイドラインの中で,誤嚥または嚥下障害の存在が確認された患者の肺炎と明らかにされている。その後も,2008年の院内肺炎のガイドライン,2011年の医療・介護関連肺炎ガイドラインにおいても,この基準が踏襲されている。後者については,英文化されており,世界に誇るべき嚥下性肺炎の基準を明らかにしている1〜3)。 しかし,注意すべきは,すべての嚥下障害患者が必ず誤嚥性肺炎を発症するわけではない,という点である。つまり,嚥下障害は,誤嚥性肺炎発症の必要条件であるが,十分条件ではない。そこで,誤嚥リスクと肺炎リスクを分離して,相互の関連性を明らかにすることが重要である。本稿では,両リスクの違いと類似性を検討し,相互の関係を明らかにしたい。 これは,肺炎患者の嚥下障害のメカニズムを精緻に検討するということではない。不顕性誤嚥に代表される微量誤嚥が,なぜ肺炎に結び付くのかを理解し,その交絡因子や患者背景状況を理解することである。 1)日本における嚥下性肺炎の肺炎に占める割合 日本の死因統計を見ると肺炎の死亡原因としての順位は,2014年の3位を最高に,現在では5位から6位であり,悪性腫瘍,心筋■塞のあとは,脳血管障害が占めている。しかし,これは,肺炎死亡の減少を意味するものではない。近年,嚥下性肺炎死も死亡原因に登録されるようになり,すでに2万5千人程度は,嚥下性肺炎死である。これ以外に,肺炎死が10万人を超えており,その多くも嚥下性肺炎であると考えられる。1)東京医科大学八王子医療センター 呼吸器内科 2008年のわれわれの研究以降,日本では,市中肺炎であっても,入院症例の場合6割近くが嚥下性肺炎であることが知られている4)。また,最近の東北地区の急性期病院の多施設研究においても,入院した肺炎症例の38.4%は嚥下性肺炎であったことが報告されている5)。市中肺炎の多くを受け入れる急性期病院で,嚥下性肺炎が占める割合が,これだけ高い頻度になると,慢性疾患や介護患者を受け入れる亜急性期,慢性期病院ではさらに頻度が高いと予測される。 2)嚥下性肺炎の原因となる誤嚥リスク 嚥下性肺炎は,誤嚥原因となるため,このリスク因子を把握することは重要である(表1)。最も頻度が高いのは,神経疾患であり,その中でも脳卒中の頻度が高い。脳卒中死は減少しているが,それと相反する形で肺炎死亡が増加しており,急性期を治療された脳■塞患者がその後,嚥下性肺炎を発症している可能性が高い。その次には,疾患ではないが,要介護度の高い,自立困難な高齢者が重要になる。高齢者人口が全人口の21%を超えると超高齢社会と呼ぶが,日本は27%を超えており,もはや超超高齢社会(このような定義は,世界保健機構の定義としては存在しない)と呼ぶべきステージに入っている。この要介護状態を含めて,咀嚼が十分で表1 嚥下性肺炎を発症しやすい基礎病態(誤嚥リスク)1)Neurological disorders2)Bedriddenness(regardless of diseases)3)Oral healthcare abnormalities4)Muscular diseases5)Pulmonary disorders6)Gastro-esophageal disorders7)Iatrogenic causes8)Physiologic abnormality9)Age-associated changes in skeletal structure141日気食会報,73(2),2022嚥下性肺炎:誤嚥リスクと肺炎リスクとの違い寺本信嗣1)
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