日本気管食道科学会会報 第73巻2号
108/167

J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション3嚥下性肺炎のリスクと予防第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録1)神戸大学 食道胃腸外科144感神経節の枝が胸管を覆う層は温存し,食道左側を固定するplaneは食道沿いで切離する。残った左反回神経とリンパ節を含む層を郭清対象とする。大動脈弓のsheathsも温存したまま左反回神経およびリンパ節を含む左食道間膜の剥離をすすめ左食道間膜の平面化を完遂した後,頭側にむかってlymphatic chainが腹側に流入する高さを目安に可及的に郭清する。4.結果 反回神経麻痺の発生率は,左側が12.8%,右側が3.7%であった。肺炎の発生率は19.2%であった。多変量解析にて,反回神経麻痺が肺炎を併発する独立した危険因子であった(p<0.001)。2015年以降,上縦隔リンパ節郭清の手技を定型化するとともに反回神経麻痺,肺炎の発生率はともに減少傾向になった。5.結語 TEPにおいて反回神経麻痺は嚥下性肺炎の独立危険因子であり,上縦隔郭清手技の定型化は反回神経麻痺および肺炎の低減・予防に有効であった。日気食会報,73(2),20221.背景 食道癌手術における合併症の一つに嚥下性肺炎があげられ肺炎の発生は生存転帰にも影響を与えると報告されている。われわれは2015年より腹臥位胸腔鏡下食道切除術(Thoracoscopic esophagectomy in the prone position:TEP)における手技の定型化を行った。本研究ではTEPにおける上縦隔郭清手技の定型化が肺炎の軽減に寄与していることを明らかにする。2.対象・方法 2010年1月から2020年12月の間にTEPを施行した297例において,嚥下性肺炎のリスク因子を多変量解析を用いて後方視的に検討した。2015年以降,手技を定型化した。3.手術手技のポイント 右反回神経周囲リンパ節郭清では交感神経心臓枝を含む右鎖骨下動脈のsheathsの外側で右反回神経を同定し,右食道間膜を気管右側壁から剥離し平面化した後,右下甲状腺動脈の高さまで胸腔内よりNo. 106recR, 101Rを郭清する。左反回神経周囲リンパ節郭清では胸管は原則温存としており,胸部交後藤裕信1),押切太郎1),加藤 喬1),澤田隆一郎1),原田 仁1),裏川直樹1),長谷川寛1),金治新悟1),山下公大1),松田 武1),掛地吉弘1)胸腔鏡下食道切除術における嚥下性肺炎の予防

元のページ  ../index.html#108

このブックを見る