図1 本邦の高齢化の現状J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション4フレイルとがん薬物療法本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。 本邦では高齢化社会はすでに到来し,その高齢者の平均余命も延長している(図1)。このような状況のもと,いわゆる“標準治療”が困難である高齢患者も増加している。この患者群は治療が全く困難な“frail”な患者層と,何らかの治療は可能である“vulnerable”な患者層に大別される。これらの対象に対する治療は個々の社会性・生理機能・病期進行度により個別に対応するしかない現状であるが,近年急速に使用頻度の増した免疫チェックポイント阻害薬などの登場によりさらに混迷度を増している。“frail”な患者層のスクリーニングと“vulnerable”な患者層に対する薬物治療について頭頸部外科(頭頸部癌),腫瘍内科(食道癌),呼吸外科(非小細胞肺癌)それぞれの領域について最新の知見をご講演いただいた。 岩江信法先生(兵庫県立がんセンター頭頸部外科)からは高齢者頭頸部癌患者治療の特徴と多様性についてご講演いただいた。特にスクリーニングツールであるG8(Geriatric8)は高齢者のみならず若年者を含む治療前評価に有用である可能性が示された。146 浜本康夫先生(慶應義塾大学医学部腫瘍センター)からは高齢食道癌患者に対する後ろ向きおよび前向き研究についてご講演いただいた。やはりG8が有用である可能性が示唆され,さまざまな治療オプションが開発されているが,患者スクリーニングも含めて標準化のみちはまだまだ遠いと考えられた。 長野太智先生(九州大学大学院消化器・総合外科(第二外科))からは臨床病期III期の非小細胞肺癌における標準治療である術前化学放射線療法後に肺切除を受けた患者における骨格筋減少の意義についてご講演いただいた。骨格筋減少は独立した術後合併症発症因子であり,栄養および運動(リハビリ)介入を行うことによる骨格筋減少予防に取り組むことによって合併症を減少させる可能性が示唆された。 庄司文裕先生(九州がんセンター呼吸器腫瘍科)からは進行/再発非小細胞肺癌における癌免疫療法効果の最新の知見についてご講演いただいた。近年,広く使用されている免疫チェックポイント阻害薬の効果には宿主免疫栄養状態が影響することを報告いただいた。さらに近年注目されている腸内細菌叢のICIへの影響についての取り組みも示された。 「フレイルとがん薬物療法」はすでに高齢化社会である本邦において早急に取り組まなければならない課題であるが,実臨床における“フレイル”の定義は未だ明確とは言えず,対象者のスクリーニング,治療の標準化,効果的介入の方法などわれわれが取り組むべき課題が明確となった。 最後に本邦で待ったなしの状況である「フレイルとがん薬物療法」をテーマに取り上げていただいた会長の杉尾賢二先生に敬意を表するとともに心より深謝いたします。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。日気食会報,73(2),2022pp.146─150パネルディスカッション4「フレイルとがん薬物療法」司会者のまとめ丹生健一 神戸大学大学院医学研究科外科系講座 耳鼻咽喉科頭頸部外科学分野柴田智隆 大分大学 消化器・小児外科学講座
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