J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション5高齢者の呼吸栄養リハビリテーション本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。 高齢社会のわが国において,加齢や加齢に伴う疾患により,呼吸・嚥下機能や栄養状態の低下が起こってくる。これらの低下は,高齢者の健康障害に直結するため,近年呼吸や嚥下,それに栄養リハビリテーションの重要性が高まってきている。本パネルディスカッションでは,パネリストとして呼吸器内科,リハビリテーション科,外科,耳鼻咽喉科からエキスパートの先生方4名にそれぞれの分野の立場からご講演いただいた。 近畿大学医学部リハビリテーション医学の東本有司先生は,呼吸器内科とリハビリテーション科の視点から,高齢者に多い慢性閉塞性肺疾患(COPD)と間質性肺炎に対する呼吸リハビリテーションの実際と有効性を,自科での取り組みをベースに示された。これらの慢性呼吸器疾患では,栄養状態も悪化しているため,呼吸リハビリテーションに栄養補助療法を組み合わせることが重要であると述べられた。 蘇生会総合病院外科の土師誠二先生は外科の視点から,高齢がん手術患者に対する栄養と周術期リハビリテーションの介入研究結果について示された。免疫栄養や高蛋白投与介入が行われた群は,非介入群と比較して手術部位感染や重症合併症発生率は低下し,サルコペニア合併例におけるリハビリテーション介入群は非介入群と比較して身体機能維持に有用であったことが示された。151 愛媛大学医学部耳鼻咽喉科の田中加緒里先生は,嚥下のフレイルを「老嚥」と称し,高齢者における嚥下機能低下のメカニズムを示された。特に中咽頭収縮圧低下や喉頭下垂の重要性を強調され,自科の嚥下外来における舌抵抗訓練,頭部挙上訓練などの嚥下障害に対する取り組みの有効性を示された。 聖隷佐倉市民病院耳鼻咽喉科・摂食嚥下センターの津田豪太先生は,嚥下障害患者に対して嚥下訓練に並行した栄養補助と呼吸リハビリテーションの重要性を示され,自センターで行われている嚥下・栄養・呼吸リハビリテーション入院プログラムを紹介された。これは多職種(医師,看護師,言語聴覚士,管理栄養士,理学療法士など)が介入する2カ月間にわたるプログラムで施行されており,その有効性について述べられた。 本パネルディスカッションでは学際的な本学会の特徴を生かし,高齢者の呼吸・嚥下・栄養リハビリテーションに関わる種々の分野の先生方の素晴らしいご講演を拝聴し,Web参加者や司会者との質疑応答を行った。高齢者の嚥下・栄養・呼吸障害に関わる当学会会員にとって,今後の診療や研究の発展に役立つ大変有意義なセッションであったと考える。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。日気食会報,73(2),2022pp.151─159パネルディスカッション5「高齢者の呼吸栄養リハビリ テーション」司会者のまとめ兵頭政光 高知大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科岩永賢司 近畿大学病院 総合医学教育研修センター
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