日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション5高齢者の呼吸栄養リハビリテーション本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1)愛媛大学医学部 耳鼻咽喉科頭頸部外科156ことで嚥下能力は維持されるが,低栄養・低活動・疾患・ストレスなどの外的要因が加わることで代償機能が低下し,老嚥となると考えている(図1)。老嚥は可逆的な段階であり,リハビリテーションを含めた介入により改善が期待できる。つまり,老嚥患者の早期発見・介入や,予防を目的とした自己訓練法の啓蒙は,嚥下能力の維持,低栄養予防につながり,健康寿命延伸も期待できる重要な課題であると考えられる。3.咽頭期嚥下の加齢変化と代償機能 代表的な咽頭期嚥下の加齢変化は,感覚機能低下,喉頭下垂,喉頭挙上能の低下,食道入口部開大能の低下である。形態変化としては,加齢による約1〜2椎体分の喉頭下垂1),舌骨上筋群であるオトガイ舌骨筋の筋量低下2),輪状咽頭筋の形態変化3)などがある。 喉頭は,口腔期,嚥下物を随意的に口腔から咽頭へ送り込む段階で緩やかに挙上し(第1相喉頭挙上),咽頭期,嚥下反射の際に急速に大きく挙上する(第2相喉頭挙上)。喉頭挙上は,舌根の後方移動強化,咽頭収縮力強化,喉頭蓋反転,食道入口部開大に関与している。つまり,喉頭挙上不十分は気図1 老嚥=嚥下のフレイル.老嚥は可逆的な段階であり,リハビリテーションを含めた介入により改善が見込めるとされている.日気食会報,73(2),20221.はじめに 高齢者の嚥下障害は,病態が複雑で重症化しやすく,嚥下に対する集中的治療を行っても経口摂取自立を諦めざるを得ない場合も少なくない。嚥下障害の病態や予後は,原因や背景によりさまざまであるが,嚥下機能低下を代償できるか否かは,嚥下障害発症後の経口摂取自立再獲得を左右する一つの重要な因子になる。そのため,日頃より高齢者の代償機能を意識した自己訓練法の啓蒙を行い,のどの筋肉を鍛えておくことは,嚥下障害発症後の経口摂取自立再獲得を含め,健康寿命延伸に大きく寄与できる可能性がある。2.高齢者の嚥下障害 高齢者の嚥下障害は,加齢による嚥下機能低下を背景として,脳卒中・神経筋疾患等の嚥下機能を直接的に障害する疾患,脳■塞後遺症,内服薬の副作用,認知症,ADL低下など間接的に嚥下機能に悪影響を招く要因など複数の原因が重なって発症する。そのため,その病態は複雑で重症化しやすく,高齢誤嚥性肺炎患者の経口摂取再獲得率は約50%以下と言われている。 老嚥とは嚥下のフレイルとも言われ,健常高齢者のうち,顕在する摂食嚥下障害はないが,加齢による嚥下機能低下をきたしている状態のことで,容易に誤嚥性肺炎や窒息のリスクが高まる嚥下障害へと移行しやすい危険な状態であると定義されている。しかし,嚥下障害のない超高齢者も少なからず存在しており高齢者=(イコール)老嚥とは言い難い。筆者は,高齢者の嚥下関連器官の解剖学的・形態的変化による嚥下予備能低下に対しては,代償が働く高齢者の代償機能を意識した嚥下リハビリテーション〜経口摂取再獲得のための予防医学のすすめ〜田中加緒里1)

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