ヒト声帯黄斑内の細胞は,分化多能性を持った組織幹細胞あるいは前駆細胞であること,ヒト声帯の前黄斑と後黄斑は幹細胞ニッチであることがこれまでの研究で明らかになっている。 ヒト声帯黄斑内の組織幹細胞の代謝プログラムを人為的に制御できれば,幹細胞機能の調節,幹細胞老化の抑制による抗老化法の開発などに繋がることが期待される。このためには声帯組織幹細胞の代謝プログラムによる幹細胞機能の制御を解明することが必要である。1.ヒト声帯黄斑内の細胞のエネルギー代謝 ヒト声帯黄斑内の組織幹細胞では,嫌気的解糖にJ. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1)久留米大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座図1 解糖系代謝162よるエネルギー代謝が行われ,ミトコンドリア呼吸(酸化的リン酸化)は抑制され,ペントースリン酸経路による嫌気的解糖系代謝(図1)が行われていることが,これまでの研究で示唆されている1〜3)。 このようなエネルギー代謝は,活性酸素種の産生が少なく,活性酸素種による細胞障害(DNA損傷)を最小限にし,細胞の未分化性・幹細胞性を維持するために有利であると考えられる。 ヒト声帯黄斑内の組織幹細胞では,未分化性・幹細胞性を維持する代謝プログラムが行われていることが示唆された2,3)。日気食会報,73(2),2022佐藤公則1),千年俊一1),佐藤公宣1),佐藤文彦1),小野剛治1),梅野博仁1)ヒト声帯粘膜の組織幹細胞─in vivoにおけるコロニー形成の役割─気管食道領域の基礎研究ワークショップ1
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