図3 コロニー形成細胞の乳酸デヒドロゲナーゼ(免疫組織化学)図2 コロニー形成細胞のグルコース輸送体(免疫組織化学)163ソキナーゼに触媒されグルコース6-リン酸になる(図1)。声帯黄斑内の細胞のすべてにヘキソキナーゼが発現していたが,コロニー形成細胞に強く発現していた。 ホスホフルクトキナーゼは解糖系の律速酵素であるが,ホスホフルクトキナーゼは,黄斑内の細胞あるいはコロニーを形成している細胞には発現していなかった。 一方,グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼは,ペントースリン酸経路の律速酵素(図1)であるが,コロニーを形成している細胞に発現していた。この酵素に触媒されグルコース6-リン酸は6-ホスホグルコン酸になり,この反応で産生されるNADPHには抗酸化ストレス作用がある。 ペントースリン酸経路で産生されたグリセルアルデヒド3-リン酸は,グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼに触媒され,1, 3-ビス・ホスホ・グリセリン酸になる(図1)。グリセルアルデヒド- 3-リン酸デヒドロゲナーゼがコロニーを形成している細胞に強く発現していた。 解糖系で最終的に産生されたピルビン酸は,好気的環境ではミトコンドリアへ運ばれ酸化的リン酸化が行われる。一方,嫌気的環境では乳酸デヒドロゲナーゼに触媒され,乳酸が産生される(図1)。黄斑内の細胞,特にコロニーを形成している細胞に乳酸デヒドロゲナーゼが発現していた(図3)。 これまでの研究で黄斑内の細胞では,嫌気的環境で嫌気的解糖が行われていることが示唆されている1〜3)。今回の研究ではコロニーを形成している細胞では嫌気的解糖が亢進していることが示唆された4)。5.活性酸素種と幹細胞性の維持 酸化的代謝は,活性酸素種を生成する。このうちスーパーオキシラジカルの大部分は,ミトコンドリアのATP合成によって生成される。活性酸素種による細胞傷害(DNA損傷)の蓄積は,幹細胞の自己複製能を障害し,幹細胞の老化を促進する。したがって幹細胞はミトコンドリアにおける酸化的リン酸化による酸素の消費を抑制し,その未分化性を維持する代謝プログラムを持っていると言われている。6. コロニーを形成するヒト声帯黄斑内細胞の解糖系代謝プログラムとその役割 ヒト声帯黄斑内のコロニーを形成している組織幹細胞には,グルコース輸送体と嫌気的解糖系酵素が強く発現しており,ペントースリン酸経路の嫌気的日気食会報,73(2),20222.ヒト声帯黄斑内の細胞とコロニー形成 幹細胞をin vitroで培養するとコロニーを形成して増殖し,幹細胞の一つの特徴とされている。しかしその役割は不明な点が少なくない。 ヒト声帯黄斑内の細胞もin vitroで培養すると,幹細胞に特徴的なコロニーを形成する。さらにヒト声帯黄斑内の細胞はin vivo・生体内でもコロニーを形成している(図2,3)。 in vivo・生体内でコロニーを形成しているヒト声帯粘膜の組織幹細胞の解糖系代謝プログラムを今回検討し,その役割を考察した。3.コロニー形成細胞のグルコース輸送体 グルコースは,グルコース輸送体を介して細胞質に取り込まれる。コロニー形成細胞にグルコース輸送体が多く存在し(図2),コロニーを形成している細胞で糖代謝がより盛んに行われていることが示唆された。4.コロニー形成細胞の解糖系酵素 細胞質内に取り込まれたグルコースは,まずヘキ
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