医療におけるビッグデータの構築とそれを応用した人工知能の研究は加速度的に発展を遂げており,いくつかの分野で臨床応用され始めている。ビッグデータを構築するためにはデジタル化が必須であるが,デジタルをうまく診療の中に取り入れ,診断データをメタデータとして加えることで,その後の人工知能構築などに大きく役立つ。病理におけるデジタル化はWhole slide imageもしくはバーチャルスライドと呼ばれる技術が約15年前から出現し,徐々にデジタル診断に移行しつつある。特に欧米ではCOVID-19による影響が大きく,病理診断のリモート化を余儀なくされた結果,デジタル診断が大きく進んだと言える。今後本邦でもデジタル化の流れは加速的に広がると予想される。デジタル化により,診断は時間と場所を選ばず,またその共有が極めて簡便となったため,ディスカッションによる診断が大きく進んだ。呼吸器学会ではクラウドシステムを利用した遠隔MDD(multidisciplinary discus-J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録1)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻 病理学169sion)診断がびまん性肺疾患の中央診断を行う試みが進んでおり,これらも極めてリッチなビッグデータとして今後の2次利用が期待される。このようにリッチなビッグデータが■えば,これらを応用して有用な人工知能を構築することが可能となる。現在病理診断における人工知能は日進月歩の発展を遂げており,診断を行うもしくは病変部位を指し示すといった単純なタスクを越え,ヒトがとらえることのできなかった特徴をとらえて予後や治療効果と相関するモデルが登場するなど,大きく病理診断の枠組みを超える発展を示してきていると言えよう。また,臨床応用する際に重い責任が生じることから,人工知能に説明性が要求されることも少なくなく,説明可能な人工知能が注目を浴びている。今回のセッションでは,これらデジタル化と人工知能の発展の流れを紹介し,現在何を目指して人工知能を構築しているかについて自身のデータもまじえて紹介したい。日気食会報,73(2),2022pp.169─176病理診断におけるデジタル化と人工知能の現状と展望福岡順也1)人工知能・ビッグデータを用いた研究ワークショップ2
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