いる。 本法は,■平上皮細胞の移植だけでなくさまざまな種類の細胞を消化管の内側から移植できる技術であり,新たな展開が期待できる5, 6)。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。文 献 食道粘膜の代わりに口腔粘膜から作製した■平上皮細胞シートを食道ESD後の潰瘍面に内視鏡的に移植することで食道粘膜上皮を再生させる治療法を開発してきた1)。 細胞シートは「温度応答性培養皿」を用いることで作製することができる。温度応答性培養皿は,温度応答性高分子であるpoly(N-isopropylacrylamide)を培養皿表面に共有結合させた特殊な培養皿である。この培養皿表面は,細胞を培養する温度である37℃で疎水性を示し細胞が接着・増殖する。一方,培養皿を32℃以下にすると親水性となり,水和にともなって細胞が自発的に脱着する。コンフルエントになるまで細胞を培養し温度を室温まで下げると,細胞間の結合や細胞シート底面に沈着したコラーゲン,フィブロネクチン,ラミニンなどからなる細胞外マトリックスを保持した状態で,一枚の細胞シートとして回収できる。細胞シートの利点は,この細胞外マトリックスがあたかも「糊」のような役目をするため,細胞と組織が短時間で接着できることである。細胞シート移植は,細胞懸濁液の注射による移植と比較して生着率は高く,■平上皮細胞のstem cell/progenitor cellを移植するのに有利と考えられる。 2008年に東京女子医大病院において本法のfirst-in-human(FIH)試験を行いその有効性と安全性を確認した2)。2012年にスウェーデンのカロリンスカ研究所3),2013年に長崎大学病院4)と本法の共同研究を行った。口腔粘膜由来の■平上皮細胞シートは,2017年厚生労働省から「先駆け審査指定制度」の対象品目指定を受けており保険収載が期待されてJ. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1)東京女子医科大学 消化器外科,2)東京女子医科大学 先端生命医科学研究所1) Ohki T, Yamato M, Murakami D, et al:Treat-ment of oesophageal ulcerations using endoscopic transplantation of tissue-engineered autologous oral mucosal epithelial cell sheets in a canine mod-el. Gut 55(12):1704─1710, 2006.2) Ohki T, Yamato M, Ota M, et al:Prevention of esophageal stricture after endoscopic submucosal dissection using tissue-engineered cell sheets. Gas-troenterology 143(3):582─588, 2012.3) Jonas E, Sjöqvist S, Elbe P, et al:Transplantation of tissue-engineered cell sheets for stricture pre-vention after endoscopic submucosal dissection of the oesophagus. United European Gastroenterol J 4(6):741─753, 2016.4) Yamaguchi N, Isomoto H, Kobayashi S, et al:Oral epithelial cell sheets engraftment for esopha-geal strictures after endoscopic submucosal dis-section of squamous cell carcinoma and airplane transportation. Scientific Reports 7(1):1─12, 2017.5) Leggett CL, Gorospe EC, Lutzke L, et al:A new era:endoscopic tissue transplantation. Curr Opin Gastroenterol 29(5):495─500, 2013.6) 大木岳志:食道粘膜上皮の再生.日気食会報72(5):281─287, 2021.177日気食会報,73(2),2022pp.177─181細胞シートによる食道再生医療大木岳志1),2)気管食道科における再生医療ワークショップ3
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