日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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 腫瘍の浸潤,外傷や炎症性疾患などに伴う狭窄により気管切除が必要となった場合,一期的再建を目的とした気管吻合術,段階的な再建を目的とした術後気管皮膚瘻孔閉鎖術等が行われるが,前者は術後管理が難しく,後者は複数回の外科的処置を要する。また,気道としての枠組みの硬性組織再建を要する症例では,自家軟骨組織を採取する必要があり,患者への侵襲は少なくない。そのため,安全,容易かつ確実な気管再建方法の確立は臨床上の大きな課題であった。 われわれは体外で組織をつくり体内へ移植するものであった組織工学を,体内で組織再生を図るin situ tissue engineeringという概念に発展させ,そのコンセプトに基づきポリプロピレンとコラーゲンからなる生体内組織再生誘導型人工気管を開発した。十分な強度を有し,良好な生着が期待できる構造になっており,実際,非臨床研究および臨床研究J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録1)京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科178で有効性,長期的な安全性,再生気管の十分な物理的強度等を確認している。さらに,人工気管の有効性および安全性を検討するため,2017年から2018年にかけて多施設共同医師主導治験を行い,現在は企業から医療機器承認申請するための準備中である。 人工気管の早期の実用化が期待される一方で,開発研究を通して,いくつかの課題も明らかになってきた。まず,われわれの人工気管は非吸収性材料を使用しているため,成長過程にある小児では使いにくい。また,人工気管の一部が外界に露出するという特殊な環境もあり,内腔面の上皮化には数カ月を要する。そこで現在われわれは,これらの課題に対する解決法を見いだすべく,気管の再生医療研究に取り組んでいる。本講演では,新規医療機器としての人工気管の開発および実用化への取り組みを紹介するとともに,残された課題について概説する。日気食会報,73(2),2022人工気管の開発と課題岸本  曜1)気管食道科における再生医療ワークショップ3

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