J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1)長崎大学病院 腫瘍外科,2)長崎大学大学院 ハイブリッド医療人養成センター,3)佐賀大学医学部 臓器再生医工学講座179が確認され,ラット気管側からの上皮細胞の進展も見られた7)。同様の実験をラットから単離した細胞でも行い8),免疫抑制剤非使用下に1年の長期生存も得られている。 食道:ヒト由来の平滑筋細胞,線維芽細胞,MSCを用いて作成した人工食道にてラット食道と胃をバイパスする形で移植を行った。この際も気管同様にステント補助下に移植を施行し長期生存を得ることができた。移植後1カ月で,組織学的に食道上皮が人工食道内腔を覆い,人工食道内に食物残渣の通過も見られた9)。ラットから単離した細胞でも同様の実験を行い,半年以上の生存を得ることができ,体重の増加も見られた。3. 幹細胞から分化させたdifferentiated cell spheroidを用いた管腔臓器の作成 現時点での課題として,作成した人工気管および人工食道の強度等のqualityにばらつきが大きいことがあげられる。これに対する打開策として,細胞の段階でのqualityの向上および均一化を目標に,幹細胞から分化させた均一の細胞を用いての人工臓器の作成を検討した。 気管:これまで使用していた成熟軟骨細胞を用いて作成したspheroidに比べてMSCに適切な成長因子,分化誘導因子を加えて作成した分化軟骨細胞を用いて作成したspheroidは,よりグリコサミノグリカンに富んだ硝子軟骨に近い組織となった。再現性をもって強度の高いチューブ状構造体の作成に成功しており,今後ステント非使用下での移植を予定している。 食道:再現性をもってMSCから平滑筋細胞への分化に成功した。今後,この分化平滑筋を用いて作日気食会報,73(2),20221.はじめに 管腔臓器の再建を要する疾患は,外傷性,炎症性,先天性疾患や悪性腫瘍など多岐にわたり,再建を要する幅広い外科領域において再生医療が注目されてきた。これまでは細胞生着の足場であるscaf-foldを用いるものがほとんどであった1〜3)が,感染のリスクや生体適合性の低下などの問題がある4, 5)。われわれは,scaffoldを使用せず,選択した任意の細胞塊(spheroid)を用いた複雑な立体構造を作成するバイオ3Dプリンティング技術6)を用いて,外科領域で用いることが可能なさまざまな管腔臓器再生の研究を行ってきた。気管および食道に関しての新たな外科治療の可能性の探索について述べる。2. 数種類の細胞を混合したmulticellular spher-oidを用いた管腔臓器の作成 細胞を共培養させることで細胞同士の相互作用により,形成する組織のqualityを上げることを目的とした。 気管:ヒト由来の軟骨細胞,間葉系幹細胞(mes-enchymal stem cell:MSC),血管内皮細胞(umbili-cal vein endothelial cells:HUVEC)を用いて作成した軟骨リングと線維芽細胞,MSC,HUVECを用いて作成した線維芽リングを交互に積層し,実際の気管を模して作成した人工気管を免疫抑制剤使用下にラット頸部気管に間置し移植した。人工気管は移植操作に耐えうる強度を有していたが,長期の経過で虚脱が見られたためステント補助下に移植を行った。移植後1カ月で,移植された人工気管内には微小血管および周囲ラット組織の微小血管との連結Bio-3D Printerを用いたscaffold freeの気管・食道の再生町野隆介1),松本桂太郎1),2),谷口大輔1),2),内田史武1),2),原 亮介1),2),小山正三郎1),2),森山正章1),2),土谷智史1),宮崎拓郎1),朝重耕一1),土肥良一郎1),溝口 聡1),松本理宗1),中山功一3),永安 武1),2)気管食道科における再生医療ワークショップ3
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