反回神経障害では神経の形態は再生しても,過誤再生により声帯運動は改善に至らない場合が多い。その原因として,反回神経を構成する①運動神経と感覚・自律神経間,②声門開大筋と閉鎖筋を支配する運動神経間,の過誤再生が生じるためと考えられる。われわれは機能回復を目指した新規治療法開発を目的とし,(1)再生の足場としての神経再生誘導チューブ(PGA-コラーゲンチューブ,Nerbridge,東洋紡)の薬剤徐放性について検討した。また過誤再生①の抑制を目指し,感覚神経再生を担うNGF-TrkA pathwayに作用し,これを阻害するTrkA阻害薬に着目し,(2)再生の調節因子としてTrkA阻害薬を浸透させた神経再生誘導チューブによる反回神経切断架橋ラットモデル(TrkAi治療)における神経再生,機能改善,過誤再生抑制効果を検討した。 (1)では時間経過に伴って減少するものの,少なくとも2週間は薬剤徐放性を持続していた。また感J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録1)防衛医科大学校 耳鼻咽喉科,2)自衛隊中央病院 耳鼻咽喉科,3)岡山理科大学獣医学部 形態学講座,4)防衛医科大学校 生化学講座,5)防衛医科大学校 解剖学講座181覚中枢である迷走神経節におけるTrkA受容体リン酸化阻害作用の1週間以上の継続を確認した。 (2)ではTrkAi治療により,40%以上の声帯運動回復例を認め,声帯運動の定量化でも有意な運動角の増大を認めた。形態学的に有意な有髄化軸索増加,有髄神経線維径の増大を認め,電気生理学的な神経伝導速度の有意な改善は認めなかったものの,活動電位の振幅の有意な増大を認めた。また逆向性標識法により,迷走神経節の標識細胞数の減少を認め,①の過誤再生抑制効果を確認した。 本研究では神経再生誘導チューブを足場としたTrkAi治療により,運動神経─感覚神経・自律神経間の過誤神経再生を抑制し,相対的な運動神経同士の再生が促され,声帯運動機能改善効果が促進された可能性が示唆された。本治療法のみでの完全な声帯機能回復までは期待できないが,治療戦略の一翼を担い得る可能性が示された。日気食会報,73(2),2022鈴木 洋1),2),荒木幸仁1),松井利康3),佐藤泰司4),小林 靖5),塩谷彰浩1)反回神経障害に対する声帯運動回復を目的とした治療戦略気管食道科における再生医療ワークショップ3
元のページ ../index.html#145