J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1)名古屋市立大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科182日気食会報,73(2),2022pp.182─1941.はじめに 痙攣性発声障害は,器質的異常や運動麻痺を認めず,発声時に内喉頭筋の不随意的,断続的な痙攣により発声障害をきたす難治性稀少疾患である。本症は内転型,外転型と混合型に分類され,このうち内転型が約93%と多数を占め,内転型では発声時に声帯が不随意的,断続的に強く内転することで声門過閉鎖がおこり,その結果声が途切れ円滑さを欠く1)。 保存治療としてA型ボツリヌス毒素の局所注入療法があるが,その効果は一時的で永続的な効果が期待できる治療法の出現が待たれていた。チタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術2型は,甲状軟骨を正中で左右に開大することにより声門間■を作成し,声門過閉鎖を防止することで永続的な症状改善効果が期待できる手術である2)。本手術時,声門間■を保持するために甲状軟骨の接合に用いられるのが,新規医療機器「チタンブリッジ」である3)。 新規医療機器「チタンブリッジ」と新規手術手技「甲状軟骨形成術2型」の社会実装を目的に医師主導治験を実施し,2017年12月15日に甲状軟骨固定用器具;チタンブリッジの医薬品医療機器等法(薬機法)承認を得た。また新規医療技術の実施医・施設基準の設置,ガイドライン作成等を行い,2018年度には甲状軟骨形成術2型が喉頭形成術(甲状軟骨固定用器具を用いたもの)として保険収載された。 本稿では,チタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術2型の安全で効果的な普及を目的として開発した手術講習会用のDry-surgical modelを紹介するとともに,本革新的医療技術の普及に向け開発してきた手術支援機器を紹介する。発声障害用医療機器および医療技術の開発讃岐徹治1)気管食道科の医薬品・医療機器開発2.Dry-surgical modelを用いた手術講習会 本手術を成功させるポイントが3つある。1つは,軟骨下の内軟骨膜・軟部組織を損傷しないように注意しながらの甲状軟骨正中切開すること。2つめは,甲状軟骨切開縁を手術器具で損傷して気道内腔が開放されないように慎重に軟部組織を剥離すること。3つめは,適切なサイズのチタンブリッジを術中に音声モニタリングしながら選択することがあげられる。 チタンブリッジの薬機法承認要件として安全に本治療法が普及することを目指した手術講習会を定期的に実施することが医薬品医療機器総合機構から要求された。そこでチタンブリッジの医師主導治験を実施したAMED讃岐班では,日本喉頭科学会および日本耳鼻咽喉科学会と連携し,チタンブリッジ手術講習会ワーキンググループを立ちあげ,手術講習会の準備を行った4)。 手術講習会は,多くの医師が参加可能な学術集会と同一会場(ホテルや会議室等)での開催が求められ,ホテルや会議室では,御献体や動物を利用した手術講習は困難であることから,Dry-surgicalモデルの開発が必要であった。そこで日本神経内視鏡学会の技術認定制度で用いられていた樹脂製の解剖モデル5)を参考にチタンブリッジ手術ハンズオン用モデルを開発した(図1)。 チタンブリッジ手術ハンズオン用モデルの特徴は,1)日本人成人男性と成人女性の甲状軟骨を模した大小2つのサイズ,2)若年者と老年者の甲状軟骨の厚さと硬さに対応した,ドリルで切開可能な硬質モデルとメスで切開可能な軟質モデルとした。さらに3)甲状軟骨内面に樹脂を貼り付け,甲状軟骨切開縁の軟部組織剥離操作が可能とした。本モデルは,チタンブリッジ実施医手術講習会で利用され受講者の技術認定に活用されている。ワークショップ4
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