日気食会報,73(2),2022pp.70─76COVID-19時代の気管・食道・頭頸部外科 ─COVID-19が変えた診療─ COVID-19時代の食道外科について,がん研究会有明病院消化器外科の渡邊雅之先生に本邦におけるパンデミック下の医療についての基調講演をいただき,次いで自施設のコロナ対応についてご講演いただいた。SARS-CoV-2感染者に対する手術は術後死亡リスクが高く,待機手術にあっては診断から7週おいての手術が推奨されることが示された。パンデミック下では,がん検診の受診率が下がり病期が進むこと,外科手術件数が減少していることが示された。英国からの報告では診断の遅れから肺癌で4.8〜5.3%,食道癌で5.8〜6.0%5年後の死亡率が増加することが推定されていることも示された。自施設においては,当初,コロナ病棟はつくらず,がん専門病院として他院からの症例を受け入れることを方針としていたが,第5波ではコロナ病棟を作成し対応したことが報告された。 次いで,東邦大学呼吸器外科の佐野厚先生には呼吸器外科におけるCOVID-19の影響について講演いただいた。日本肺癌学会の調査により2020年は2019年と比較し肺癌新規診断患者数が6.6%,手術患者数が6.0%減少していることが報告された。SARS-CoV-2感染者に対する肺癌手術の自験例を示し,CTではわずかに網状陰影の残存する肺において,病理学的には胸膜直下・肺胞間の線維化像,炎70症細胞浸潤,肺血管内血栓などの所見を認めたことを示した。また,COVID-19による重症呼吸不全症例に対する肺移植の報告が海外からあり,国内からもECMO離脱困難症例に対する生体肺移植の報告があることが示され,成績は未知数であるが治療法の一つとして期待されるとした。 最後に,愛知医科大学耳鼻咽喉科の藤本保志先生に耳鼻咽喉科診療におけるCOVID-19の影響についてご講演をいただいた.耳鼻咽喉科領域の診療は鼻腔・口腔・咽頭・喉頭の診察や手術を取り扱うため,COVID-19の感染リスクが非常に高い.これを踏まえて日本耳鼻咽喉科学会では各領域の手術に対する感染対策の指針を作成したこと,また日本嚥下医学会では嚥下障害診療に関する対応について公開したことを報告された.当初の指針は非常に厳しい内容であったため,診療の後退であるとの見方もされたが,感染対策としては結果を出すことができたこと,それまでルーズとも言えた耳鼻咽喉科診療において感染対策が徹底してきたと述べられた.また終わりに,気管切開術に関して自施設における手技と結果について示していただいた。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム1本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。シンポジウム1「COVID-19時代の気管・食道・頭頸部外科 ─COVID-19が変えた診療─」司会者のまとめ千田雅之 獨協医科大学 呼吸器外科学講座田山二朗 国立国際医療研究センター病院 耳鼻咽喉科
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