日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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1)がん研有明病院 消化器外科71の有効利用が必要なpandemic下において推奨されるとされている3)。 COVID-19のpandemicにより,多くの先進諸国において2020年に超過死亡が認められた4)。わが国においては2020年に超過死亡は認められず,第4波に一致して有意な超過死亡が認められた。しかしながら,COVID-19による死亡を除く観測死亡数はほぼ予測死亡数と一致しており,わが国における医療提供体制は維持されたことが示唆される。3.周術期への影響と管理 COVID-19感染患者の手術においては,術後肺合併症の発生率が50%を超え,死亡率も高いことが報告された5)。高齢者,男性,重症併存症を有する症例,緊急手術,大手術が周術期死亡のリスク因子であった。また,SARS-CoV-2陽性患者は陰性患者に比較して静脈血栓塞栓症のリスクが高いことが報告された6)。SARS-CoV-2感染から6週間以内の手術では術後30日死亡のリスクが有意に高いため,感染患者に対する手術は可能であれば7週以上の待機が推奨されている7)。4.がん治療への影響 COVID-19のpandemicはがん診療にも影響した。日本対がん協会のデータでは2020年のがん検診受診者は前年より30%以上減少していた。わが国の2020年の院内がん登録データによると大腸癌はstage 0からIIの症例が前年に比較して有意に減少する一方でstage III症例が約70%増加し,胃癌ではstage Iが約36%減少した8)。がんの診断遅れはその後の予後に影響する可能性があり,英国からの報告では特に肺癌や食道癌では比較的早期に死亡数の増加が見込まれると報告された9)。食道癌や肺癌治療においては,集学的治療が制限されたことが示唆されており,今後の治療成績への影響が危惧さ日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム1本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1.はじめに 2019年末に中国武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は瞬く間に世界中にpandemicを引き起こした。わが国でも感染のピークは5波を数え,東京では4回の緊急事態宣言が発出された。一方,急速に進んできたワクチン接種の効果もあり,2021年9月以降わが国の感染者数は急激に減少して現在に至っている。本稿では,CO-VID-19が気管食道科診療に与えた影響について,文献的考察を交え述べることとする。2.手術提供体制への影響 Pandemic初期にはCOVID-19患者の病床確保が必要となり,重症患者によりICU病床が占拠された。個人防護具(PPE)が不足し,感染や濃厚接触により医療スタッフが不足した。この時期に世界中で多くの予定手術が中止・延期に追い込まれた。2020年3月からのpandemic初期の12週間には世界中で良性疾患に対する手術の8割以上が中止・延期となった1)。がん手術の30%以上が影響を受け,産科手術でも1/4が中止・延期となった。スペインの3次救急施設では,同時期に緊急手術も有意に減少したことが報告された2)。 COVID-19患者の唾液や糞便中から原因ウイルスのSARS-CoV-2が検出されることから,気腹や気胸によるエアロゾルが発生する体腔鏡下手術の安全性が議論された。一方,開胸・開腹手術においても発生するsurgical smokeによる医療者への感染伝搬の危険性も指摘された。その後,体腔鏡やロボット支援下手術は,適切なフィルターを使用することによりエアロゾルやsmokeの管理が可能であり,低侵襲で在院日数を短縮できることから,医療資源基調講演COVID-19が気管・食道・頭頸部外科診療に与えた影響渡邊雅之1)COVID-19時代の気管・食道・頭頸部外科 ─COVID-19が変えた診療─

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