COVID-19は高頻度に肺炎を呈するため,COV-ID-19の流行は呼吸器外科診療にも大きな影響を及ぼした。1.肺癌の新規治療患者の減少 日本肺癌学会の調査で2020年は2019年と比較して肺癌の新規診断患者数が6.6%,手術患者数が6.0%減少していることが報告されている1)。COV-ID-19による緊急事態宣言以降に減少しており,またCOVID-19受け入れ患者数の多い病院ほど減少率は高く,COVID-19の流行が大きく影響していると考えられる。日本対がん協会からは2020年のがん検診の受診者が30%減少していることが報告されている2)。これらよりCOVID-19の流行により肺癌の診断・治療の機会を逃している患者がいると考えられている。医療機関がCOVID-19流行期にも肺癌診療体制を確保するとともに,検診実施施設も感染対策を行って安全にがん検診が受けられる体制を構築し,がん検診を受診するよう啓発する必要がある。2.COVID-19罹患患者の肺癌手術 肺癌の手術を行うにあたっては,SARS-CoV-2陽性の患者から医療従事者に感染することのないようにする必要があるとともに,患者にとっても周術期のCOVID-19感染は高い死亡率・合併症率が報告されており,リスクの低下した時期に手術を行う必要がある3〜5)。一方で,肺癌の進行度によっては早期に手術を行う必要があり症例に応じた至適手術時期の検討が必要である。当院でも中等症COVID-19発症時に発見された肺癌例に対して手術を行った例を経験した6)。院内の他科・他部門と多職種カンファランスにおいて検討し,待機期間と周術期の管理1)東邦大学医学部外科学講座 呼吸器外科学分野73についての方針を定めた。COVID-19治療の退院3カ月後に手術を行い,周術期に合併症を起こすことなく経過している。3.COVID-19罹患肺癌患者の切除肺の検討 COVID-19による肺への病理学的な影響は未解明な部分が多い。当院でCOVID-19治療後3カ月後に右肺下葉切除を行った原発性肺癌例について,病理学的に検討した6)。CTではわずかに残存していた網状陰影は,病理学的には胸膜直下・肺胞間の線維化像,炎症細胞浸潤,肺血管内血栓を認めた。本例のようなCOVID-19感染例の肺切除標本を解析することで,COVID-19のさまざまな症状・後遺症の発症のメカニズム解明に役立つ可能性がある。4.COVID-19と肺移植 肺移植でドナー肺からレシピエントおよび移植に関わった外科医へのSARS-CoV-2の感染が報告されている7)。COVID-19流行期には臓器移植によるSARS-CoV-2の感染にも留意が必要である。 日本臓器移植ネットワークのデータでは脳死下の臓器提供数が近年は増加していたが,2020年は減少した8)。臓器移植件数も同様に2020年は減少している。日本肺および心肺移植研究会のレジストリーレポートでも2020年は肺移植件数が減少した9)。救急医療もCOVID-19により多大な影響を受けており,それによって脳死下の臓器提供が減少したことが考えられる。その中でも臓器移植に携わる医療従事者は自らの感染対策も行いつつ臓器移植を行っている10)。 COVID-19による重症呼吸不全に対しての肺移植も国内外で報告され始めている。長期人工呼吸器使用後およびECMO使用後の脳死肺移植が国外で報告されている11〜13)。日本国内においては脳死肺移植の待機期間が長く,医学的に緊急を要する場合に日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム1本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。COVID-19時代の呼吸器外科診療佐野 厚1),坂井貴志1),東 陽子1),肥塚 智1),大塚 創1),伊豫田明1)COVID-19時代の気管・食道・頭頸部外科 ─COVID-19が変えた診療─
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