日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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意喚起する必要がある15)。 宮城県立がんセンターでの頭頸部癌におけるニボルマブ65例の検討では,IrAEを発症した32人中,次治療中にIrAEを生じたのが2人,病勢が進行し,緩和ケアにて転院または在宅療養中にて発症した症例が6人いた。また,IrAEを発症した32人中,3カ月以上ステロイド内服を要する症例が18人(56%)と半数以上を占めていた。 宮城県立がんセンターでは,ICIが多がん種で承認されたことを受け,2017年にIrAE部会を設立した。IrAEが発症した際の院内外の連携システムの構築や検査項目を統一化するなど,院内の環境整備を行い,当直帯にIrAEが疑わしい症例が受診することも念頭に置き,普段ICI治療を行わない医師を対象に講習を行った。また重篤かつ対応に難渋したIrAEが生じた場合は,情報共有のため症例提示を用いた勉強会を不定期で行っている。 先に述べたが,IrAEは投与中のみならず,投与終了後も生じることがある。緩和ケアにて転院や在宅診療へ移行する際には,ICIの投与歴があること,IrAEが生じる可能性があることを,診療情報提供書に記載しておくことが望ましい。今後,さらなる多職種連携が必要になると思われる。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。文  献に関する定義検討ワーキンググループより65歳〜74歳を准高齢者,75〜89歳を高齢者,90歳以上を超高齢者と提言している。実臨床でも,年齢のみで判断せず,PSや合併症の有無など,総合的に判断していることが多いと推測される。高齢者の特徴として,併用薬剤が多く,薬剤有害事象が生じやすい,慢性疾患の合併症を有することが多い,せん妄や認知症の神経症状を有することがあり,がん薬物療法の判断には,余命の推定やリスクの評価が重要となる。 高齢者の多様性を評価する方法として,高齢者総合的機能評価(Comprehensive geriatric assess-ment:CGA)があり,国際老年腫瘍学会ではgeri-atric assessment(GA)と呼んでいる7)。 ASCOの老年腫瘍の高齢者薬物療法のガイドラインでは,抗がん薬治療の開始前に高齢者機能のドメイン(身体機能・併存症・薬剤・栄養・認知機能・気分・社会支援・老年症候群)を評価したほうが良いとしている8)。しかし,すべてのドメインを評価するには,時間がかかるため,現在はG-8(Ge-riatric-8)などで代用されることが多い。 高齢症例におけるICIの有用性については,年齢によるOSの差はないとの報告が多い9, 10)。しかし,免疫関連有害事象(IrAE)を発症した場合にはステロイドや免疫抑制剤を使用せざるを得ず,若年者より長期間にわたっての身体的,精神的なフォローが必要になると予測される11)。 PSとICIの有用性との関連であるが,PS不良例では,全生存期間が短いとの報告が散見される12)。本邦の頭頸部癌リアルワールドの報告では,PS2以上は,1以下と比較して,全生存期間,無増悪生存期間,腫瘍縮小率が不良であるとされる4)。また,本邦における頭頸部癌ニボルマブの市販後調査では,肝機能障害,腎機能障害,甲状腺機能障害を有する症例ではIrAE発生が多いとされた5)。PS不良症例では,IrAEの発症が多いとの報告もあり13),治療前に全身評価,既往歴や内服薬などの詳細な確認を要する。4.ICIを安全に使用するためには ICI投与時のIrAEに関しては,早期発見,治療が重要である。そのためには患者,ご家族,医療従事者全体への教育が欠かせない14)。IrAEは治療開始後2カ月以内に発現することが多いとされるが,21カ月後に発症したという報告もあり投与後も注1) Ferris RL, Blumenschein G, Fayette J, et al:Nivolumab for recurrent squamous-cell carcinoma of the head and neck. N Engl J Med 375(19):1856─1867, 2016.2) Burtness B, Harrington KJ, Greil R, et al:Pem-brolizumab alone or with chemotherapy versus cetuximab with chemotherapy for recurrent or metastatic squamous cell carcinoma of the head and neck(KEYNOTE-048):a randomised, open-label, phase 3 study. Lancet 394(10212):1915─1928, 2019.3) Cramer JD, Burtness B, Ferris RL:Immunother-apy for head and neck cancer:Recent advances and future directions. Oral Oncol 99:104460, 2019.4) Hanai N, Shimizu Y, Kariya S, et al:Effectiveness and safety of nivolumab in patients with head and neck cancer in Japanese real-world clinical prac-tice:a multicenter retrospective clinical study. Int J Clin Oncol 26(3):494─506, 2021.81日気食会報,73(2),2022

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