肺癌ゲノム医療において最優先されるべきは,ドライバー遺伝子による患者層別化とそれに基づく分子標的治療である。最新の肺癌診療ガイドラインでは,進行再発非小細胞肺癌に対する治療において,まずEGFR, ALK, ROS1, BRAF, METの5つの遺伝子診断を行って治療薬を選択することが強く推奨されている。従来,分子標的治療におけるコンパニオン診断は,1薬剤1検査の単一遺伝子検査で行われてきたが,単一遺伝子検査の積み重ねによる複数遺伝子の診断は,検査にかかる時間や検体量において明らかに限界がある。2019年6月に次世代シークエンス解析(NGS)を用いた遺伝子パネル検査が保険償還され,複数の遺伝子を同時に診断するマルチ遺伝子検査が可能となった。しかし,少なからず検査不成功例があること,turn-around timeがやや長いことなどから,やむを得ず単一遺伝子検査を選択する場合も多い。また現在のところ,標的5遺伝子をすべて網羅するパネル検査がないことも問題点1)国立がん研究センター東病院 呼吸器内科90としてあげられる。われわれが行っている多施設肺癌ゲノムスクリーニングプロジェクト(LC-SCRUM-Asia)では,2019年6月よりマルチ遺伝子PCR検査を導入し,9つの標的遺伝子を迅速かつ同時に検査することで最適な初回治療選択や治験への患者登録推進を図っている。2021年5月現在,このマルチ遺伝子PCR検査は,複数の薬剤を対象としたマルチコンパニオン診断薬として承認申請中である。さらに,これらの腫瘍組織を用いた検査に加えて,2021年3月には血漿遊離DNAを用いたNGS遺伝子パネル検査が承認されている。分子標的薬の開発が進む中,診断すべき標的遺伝子が今後さらに増えることは間違いなく,それに伴い,新たな検査法の登場や各検査における対象遺伝子の追加など,われわれは刻々とアップデートされる遺伝子診断法に随時対応していく必要がある。本発表では,肺癌遺伝子診断について現状を整理し,薬剤開発状況もふまえながら今後の展望を考察したい。日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム3第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録肺癌ゲノム医療における遺伝子診断の現状と展望松本慎吾1)がんゲノム医療
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