日本気管食道科学会会報 第73巻2号
55/167

く,ゲノム医療の重要性は今後も増すと考えられる。 患者数の多い頭頸部■平上皮癌の発癌メカニズム解明と標的治療を目指したゲノム解析は着実に進んでいるものの,画期的な発見がなされているとは言い難い。RNA発現解析やエピゲノム分野において,他臓器に発生する■平上皮癌を含めて研究が進むよう祈念している。 本抄録/会議録に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業などはありません。文  献 令和元年(2019年)は,まさに日本のがんゲノム医療元年となった。現時点では全国12カ所の「がんゲノム医療中核拠点病院」を始め,33カ所の「がんゲノム医療拠点病院」,180カ所の「がんゲノム医療連携病院」でがんゲノム医療を受けることが可能となっている。しかし次世代シークエンサーを用いたがん遺伝子パネル検査は比較的高額な最先端の手法であり,すべての癌種でコスト・ベネフィットの評価が定まっているわけではない(図1)。 2020年に発表されたESMO(European Society for Medical Oncology)の見解1)によると,転移・再発癌に対するクリニカルシーケンスが日常臨床でルーチンに推奨される癌種は,非小細胞肺癌,前立腺癌,卵巣癌,胆管細胞癌とされている。頭頸部■平上皮癌では日常診療における明確な有用性が確立していない現状ではあるものの,ESCAT(ESMO Scale for Clinical Actionability of Molecular Tar-gets)に従った遺伝子異常と対応薬剤のエビデンス分類が発表されている2)。一方,唾液腺癌は人口10万あたり1─2症例ほどの希少癌であるが,特徴的な融合遺伝子や遺伝子変異が同定されているものが多図1 岡山大学病院エキスパートパネルにおける頭頸部・食道領域の検討症例数(2019.9〜2021.10)1)岡山大学学術研究院医歯薬学域 耳鼻咽喉・頭頸部外科学1) Mosele F, Remon J, Mateo J, et al:Recommenda-tions for the use of next-generation sequencing(NGS)for patients with metastatic cancers:a report from the ESMO Precision Medicine Work-ing Group. Ann Oncol 31:1491─1505, 2020.2) Marret G, Bièche I, Dupain C, et al:Genomic al-terations in head and neck squamous cell carcino-ma:level of evidence according to ESMO scale for clinical actionability of molecular targets(ES-CAT).JCO Precis Oncol 5:215─226, 2021.91日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム3本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。頭頸部領域のゲノム医療の現状安藤瑞生1)がんゲノム医療

元のページ  ../index.html#55

このブックを見る