1)国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科92いて,BRAF阻害薬ダブラフェニブと,MEK阻害薬トラメチニブの併用療法の有効性が示されている3)。また甲状腺未分化癌(ATC)でもBRAF V600E変異はみられ,米国においてBRAF V600E陽性切除不能または転移を有するATCに対して承認を得ている。本邦ではBRAF V600E陽性固形癌などに対し臨床試験が行われており,今後が期待される。 RET遺伝子変異は甲状腺髄様癌(MTC)の70%で認められ,RETの選択的阻害剤であるセルペルカチニブは,RET遺伝子変異陽性のMTCや,RET融合遺伝子陽性の甲状腺癌患者に対し有効性が報告され4),LIBRETTO-531など国際共同試験も行われている。同様にRET阻害剤であるプラルセチニブも効果を認められている5)。 PTCでは,NTRK融合遺伝子が10─20%に認められ,NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌に対して承認されているエヌトレクチニブの効果が期待できる。2021年3月に本邦でも承認を得たラロトレクチニブは,NTRK融合遺伝子陽性固形癌を対象にした試験で奏効率80%と有効性が示されている6)。 3)唾液腺癌 唾液腺癌のうち,乳腺相似分泌癌(MASC)ではNTRK融合遺伝子が80─90%に認められ,エヌトレクチニブの効果が期待できる。唾液腺導管癌は悪性度が高いことが知られているが,アンドロゲン受容体の発現を高率に認め,アンドロゲン遮断療法の有効性が報告されており,現在アパルタミドとゴセレリン併用療法による臨床試験が行われている。また,唾液腺癌は30─40%にHER2蛋白高発現を認め,ドセタキセルとトラスツズマブの併用療法にて,70%と高い奏効割合が得られている7)。2021年11月4日の厚生労働省薬食審医薬品第二部会では,日気食会報,73(2),2022J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022シンポジウム3本稿は第72回日本気管食道科学会の抄録/会議録である。1.はじめに 近年,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の出現により,がん治療が大きく変化してきているが,より高い治療効果を得るために,ゲノムや蛋白質の発現をみて治療選択を行う試みがなされている。臓器特異的ではなく,臓器横断的な治療の開発が行われており,本邦では進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性を有する固形癌に対するペンブロリズマブと,NTRK融合遺伝子陽性固形癌に対するエヌトレクチニブ,ラロトレクチニブが臓器横断的に薬事承認されている。 本稿では頭頸部癌,食道癌における,がんゲノム医療について解説する。2.頭頸部癌 1)■平上皮癌 頭頸部■平上皮癌は,その発生部位により遺伝子変化も異なるが,ヒトパピローマウイルス(HPV)陽性例と陰性例に大別される。HPV陽性腫瘍ではPIK3CA遺伝子変異やTRAF3欠損がみられ,HPV陰性の喫煙関連の腫瘍ではTP53遺伝子変異やCDKN2A遺伝子の不活化が認められる1)。PIK-3CA阻害剤である,BKM120が有効性を示したとの報告(BERIL-1試験2))もあるが,現時点で臨床導入は行われておらず,現在のところ遺伝子変異に基づいた治療の開発は進んでいない。 2)甲状腺癌 甲状腺癌の発生にかかわる主な経路としてMAPK経路やPI3K/AKT経路があげられ,代表的な遺伝子異常としてBRAF遺伝子変異やRET遺伝子変異,NTRK遺伝子変異などが認められる(表1)。 甲状腺乳頭癌(PTC)ではBRAF遺伝子変異が最も多く認められ,BRAF V600E陽性のPTCにお大原章裕1),本間義崇1),加藤 健1)頭頸部癌,食道癌における,がんゲノム医療がんゲノム医療
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